研究課題/領域番号 |
15J04702
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日野 太夢 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 背腹軸形成 / wnt8a / 植物極微小管 / Germ line replacement |
研究実績の概要 |
当研究では27年度において、ゼブラフィッシュの初期発生における背腹軸形成の分子機構について調査した。過去の研究から、背腹軸形成には発生における主要なシグナル因子Wntの一種であるWnt8aが背腹軸決定因子として機能することが示唆されている。しかしwnt8a欠損が致死性を示すこと、またWnt8aを認識する抗体が開発されていないことから、Wnt8aの機能及び動態は明らかとなっていない。 背側決定因子Wnt8aの発現を母性に欠損させた場合の背腹軸への影響を調査するため、wnt8a欠損変異をheteroにもつ個体同士を交配し、生まれた変異ホモ胚を用いてGermline Replacement法を行った。この技法は変異胚から将来生殖腺へと分化する細胞を取り出し、正常な胚へと移植することで、生殖腺が遺伝的に変異胚由来のキメラ胚を作製する技術であり、このキメラ個体からは変異胚由来の卵を得ることができる。この技術により、本来致死性変異であるため観察できなかったwnt8a遺伝子を母性に欠損した卵を産むキメラ個体を作成した。今回作成した母性wnt8a欠損卵の調査で長く不明であったwnt8aの初期発生における機能が明らかになることが期待できる。 Wnt8aの局在解析に向け、タグ付きWnt8a発現トランスジェニック系統を用いた、タグ付きWnt8a発現系統の作成も行った。27年度にこの系統の作製に成功しており、タグ付きWnt8a発現は野生型Wnt8a発現と同じ表現型を示すことを確認している。この系統を用いることで、Wnt8aの動態が明らかになることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の大きな目的の一つであった、wnt8aの機能の解析に不可欠な、wnt8a機能欠損変異ホモの卵を産むキメラ個体の作製に成功した。現在生まれた卵の表現型を解析中である。 同時に発生初期におけるWnt8aの局在を調べるため、Wnt8aにタグペプチドを付加したトランスジェニック系統の開発も行った。Wnt8aは現在まで有効な抗体の開発がなされておらず、生体中での局在解析が不可能である。そのため、Wnt8aの局在解析にはタグ付きWnt8aを発現する系統の開発が必要である。27年度中に、タグ付きWnt8a発現系統の開発を完了しており、またこのWnt8aが野生型Wnt8aと同じ機能を保持していることをmRNA injectionによる表現型解析から確認している。今後初期胚中でのWnt8aの局在をこの系統を用いて解析していく。 これらの解析によりwnt8aが初期発生においてどのように機能しているか、28年度に詳細に解析する。
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今後の研究の推進方策 |
27年度にwnt8a母性欠損変異卵を産むキメラ個体、及びタグ付きWnt8aを発現するトランスジェニック系統を作製した。これらを用いて、Wnt8a欠損の影響、及びWnt8a局在を解析することでwnt8aの機能を解析していく。 さらに、当研究室では微小管を可視化したトランスジェニック系統を過去に開発している。この系統と背腹軸に異常がある変異体を掛け合わせたり、このトランスジェニック系統の胚に対して背腹軸に異常を引き起こすことが分かっている薬品で処理したりした場合の植物極微小管への影響をlive imagingで解析し、植物極微小管に関係する分子の調査を行う。現在までに、背腹軸欠損変異体hecateやカルシウムシグナル抑制剤Thapsigargin処理胚において、植物極微小管が短いままで一方向への伸長が観察されなくなることをlive imagingで確認しており、同様の手法で植物極微小管に異常のある変異体及び試薬を解析することで植物極微小管の分子メカニズム解明を目指す。 さらに、Wnt8aは分泌タンパク質であることから、その輸送には膜輸送がかかわることが予想されている。Wntの輸送タンパク質として知られている膜貫通タンパク質をコードするwntlessが1細胞期の胚中で発現していることを過去に確認しており、WntlessがWnt8a輸送に機能する可能性が示唆されている。wntless欠損も致死性であることから、wntlessを任意の時期に発現するトランスジェニック系統を開発し、wntless欠損をrescueすることで成魚まで生存するwntless欠損変異体を作成することを計画している。wntlessを母性に欠損した胚を手に入れ、背腹軸、Wnt8a局在に影響が出ているか調査する。
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