生物の発生過程において、各機関の配置、向きを規定する体軸の決定は非常に重要である。モデル生物ゼブラフィッシュの背腹軸決定機構は、過去の研究から受精直後に決定することが明らかとされている。さらなる研究の結果、背側構造を誘導し背腹軸を決定する背側決定因子が受精卵の卵黄植物極に局在しており、その因子によりcononical wnt pathwayが活性化されて背側特異的遺伝子が誘導されることがわかった。近年の報告から、wntファミリープロテイン、Wnt8aがその母性発現における植物極への局在と背側特異的遺遺伝子の発現誘導機能から背側決定因子であると広く認識されるようになった。しかしwnt8a機能欠損変異は致死性であるため、実際に母性にwnt8aの機能を欠損させた場合の背腹形成への影響は不明であった。当研究では生殖腺移植技術を用いてWnt8aを母性に欠損した変異体を作り出すことに成功した。その表現型を観察したところ、従来の予想とは異なりwnt8aの母性欠損は背腹軸へ影響しなかった。このことは背側決定因子として広く信じられてきたwnt8aが背腹軸に影響しない、もしくは同等の機能を持つ因子が存在するため背腹軸形成にとって必須ではないことを意味する。これは従来の背腹発生のモデルを覆し得る新たな知見である。今後wnt8aに代わる背側決定因子の探索を改めて行うことで、ゼブラフィッシュ背腹軸形成機構の解明を進めていく。
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