本年度は、生細胞におけるウイルスRNAへの応答機構を解明する基盤となる技術の開発をすべく、細胞研究用として試作された共焦点顕微鏡一体型高速原子間力顕微鏡を細胞表層で起こる現象の観察に応用し、分子の局在と微細な構造を同時に可視化する観察系の確立に成功した。高速原子間力顕微鏡による生細胞観察から、細胞表面には①60~110 nm、②150~300 nmの直径の異なる2種類の膜のくぼみ(ピット)があり、ピットの開閉が起きていることが明らかになった。ピットのサイズから、カベオリン依存的、クラスリン依存的エンドサイトーシスのピットであることが示唆されたため、各経路のマーカータンパク質とピットの共局在を検証した。結果、大きなピットはクラスリン依存的、小さなピットはカベオリン依存的エンドサイトーシスのピットであることが分かり、クラスリンの経路では“膜の隆起がピットにフタする”ことが明らかとなった。AFMによる膜直下の皮層アクチンの観察によって、膜の隆起形成にはアクチンが関与していることが示唆された。そこで、アクチン関連因子(アクチン、Arp2/3複合体など)をターゲットとした阻害剤による機能阻害と、RNA干渉法によるタンパク質の発現量の低下を行った。これらの条件で、膜の隆起の形成が顕著に抑えられ、閉じたピットが再び開く“不可逆的に開閉するピット”が増加した。この結果は、クラスリン被覆ピットを細胞膜から切り離すステップでは、Arp2/3 複合体等のアクチン関連タンパク質が一過的に集積し、細胞膜を上に押し上げると共に、小胞を下に押し下げることで、不可逆的な膜の切り離しが行われていることを示唆するものである。 ここで確立された生細胞での分子の局在と微細な構造を同時に可視化する観察系は、今後、生細胞内でのウイルス感染により誘発される感染認識の素過程を理解する上で、重要な基盤となる。
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