研究実績の概要 |
本研究では,河川水中のイオン組成および付着藻類の窒素安定同位体比(δ15N)を調査し,農業流域における河川水質の特徴と河川水中の窒素の起源について考察した。 北海道東部の十勝地域および釧路地域において,森林流域・畑作流域・畑酪混合流域・酪農流域の8地点を選定した。2015年7月および9月(平水時)に河川水を採取し,Na, Mg, K, Ca, NO3, NO2, Cl, SO4, PO4およびHCO3の10項目のイオン組成を分析した。また,調査地点の河床に1ヶ月間コンクリートブロックを設置し,ブロックに付着した藻類を採取した。採取した付着藻類は自然乾燥させてからδ15Nを計測した。 河川水のトリリニアダイアグラムから,全調査地点はCa-HCO3型に分類されたが,畑作流域のみその他の流域とは異なる傾向を示した。森林流域は,河川水中の溶存イオン濃度が低く,NO3も0.3 mg/L以下と低濃度を示した。δ15Nは0.32‰であり,森林流域の河川水中の窒素成分は降水由来であると推定された。畑作流域は河川水中の溶存イオン濃度が高く,高濃度のSO4およびNO3が特徴であった。畑酪混合流域の溶存イオン濃度は森林流域と同程度であるものの,NO3濃度が高い傾向にあった。畑作および畑酪混合流域のδ15Nは2.1-5.4‰を示し,9月の採取時に上昇する傾向がみられた。化学肥料由来のδ15Nは0‰に近い数値を示すことから,両流域では化学肥料由来の窒素成分が河川へ流出している可能性が高い。酪農流域は,河川水中の溶存イオン濃度が畑作流域と同程度に高く,HCO3が支配的であった。NO3は比較的低濃度だが,δ15Nは9.6‰と最も高い数値を示した。畜産排水由来のδ15Nは10‰前後となることが報告されており,酪農流域では家畜ふん尿由来の窒素流出が問題であることが明らかとなった。
|