これまでに高い水溶性を示す8-アザクマリン型光感受性保護基の開発に成功している。また、所属研究室ではクマリン型光感受性保護基を用いたケージドPKCリガンドを創製しているが、ケージド化していないリガンドと比較してPKCの活性化により多くの時間を要していた。そこで、独自に開発した水溶性の高い8-アザクマリン型光感受性保護基を用いると正確な光制御が可能になると考え、PKCリガンドへの導入を試みた。 これまでに創製したケージド化合物は、PKCδC1bドメインに対するKi値がDAG-lactone より40倍ほど低い値を示すことを明らかにしている。そこで、GFP融合PKCdの細胞内局在変化を共焦点顕微鏡で観察することによってケージド化合物のPKCδ活性化能を検討した。その結果、10秒間の紫外光照射によってPKCδの活性化に由来する細胞膜へのトランスロケーションが観測された。したがって、より精密にPKCδの活性化を制御可能な化学プローブを創出することに成功した。 周りの環境に応じて蛍光特性が変化する環境応答性蛍光基は、解析対象の置かれた環境を光に転換できる分子プローブとして注目を集めている。細胞内は親水性であることを考慮すると親水性環境下で蛍光を発する蛍光基が求められているが、その蛍光基の報告例は乏しいのが現状である。 蛍光発光と光反応は競合失活過程であるため、これまでに申請者が焦点を当ててきた8-アザクマリン骨格は蛍光基としても機能可能であることが推測された。8-aza-7-hydroxycoumarin-4-methyl がエタノール中で高い蛍光量子収率を有することが報告されているがその合成収率は1工程で15%と非常に低く、蛍光特性は未解明であった。そこで、合成法の精査と蛍光特性の評価を行った結果、収率70%まで改善し、溶媒・pH依存的な環境応答性蛍光基であることが示唆された。
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