パワースイッチングデバイスの本命であるSiC MOSFETは、現状その根幹に問題を抱えている。それはチャネル抵抗が高いことである。高いチャネル抵抗は、MOS界面の高密度欠陥に起因すると指摘された。しかし欠陥の起源は明らかでなく、その飛躍的な低減法は見出されていない。 欠陥の起源は酸化過程で界面に残留するC由来だと広く認知され、Cを検出するための化学分析が各機関により精力的に行われた。しかし化学分析の定量下限の問題により、C検出は困難を極めた。本研究では、酸素分圧の極端に低い高純度Ar雰囲気でSiO2/SiC試料を熱処理し、界面CをSiO2中に拡散させることで、SIMS分析によって明確に検出することに成功した。 さらに、P処理を行うことでC欠陥が除去されることを実験的に確認したため、そのメカニズムを計算科学に基づいて解明することを目指した。先行研究により、P処理を行うことでSiO2中にPが導入され、PSGが形成すると知られていたが、その微視的構造は不明であった。そこで本研究ではまず、第一原理Simulated Annealing計算により、PSGの安定構造を決定した。結果、PSG中のPは4配位でOと結合しネットワークを形成するが、その内の1つのOは1配位で格子間に位置する特異な構造 (-O3PO構造) をとることを確認した。 続いて、PSG/SiC系における酸化反応機構について調べた。SiCの酸化反応は理想的にはSiC+3/2O2→SiO2+COに基づいて進行するため、COの界面近傍からの脱離が促進されれば、界面に残留するCが減少すると考えられる。そこでPSG中のCOの挙動に着目した種々の静的な構造最適化計算を行った。結果、PSG/SiC系では界面近傍の-O3POがCOを吸着する効果を示すことを明らかにし、計算科学の立場からP処理による界面C欠陥除去のメカニズムを説明した。
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