研究課題/領域番号 |
15J04894
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
斉藤 知洋 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
キーワード | 定位家族構造 / ひとり親世帯 / 地位達成 / ライフコース / 国際比較 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、戦後産業社会で量的増加が見られるひとり親世帯に注目し、子ども期の家族構造がもたらす社会的不平等の生成メカニズムとその日本的特徴について国際比較を通じて検討することである。 第2年目にあたる本年度は、(1)日本国内におけるひとり親世帯出身者の社会経済的地位達成とその規定要因、(2)ひとり親世帯出身者の社会経済的地位達成に関する国際比較、について公共社会調査データを用いた分析を進展させた。各分析課題について得られた主たる知見は次のとおりである。 (1)母子世帯に属する母親と中学3年生は、二人親世帯群と比較して教育期待(高等教育への進学見込み)水準が低い傾向にある。ただし、二者間の教育期待の相互依存性を考慮すると、定位家族構造を含む社会経済的・家族的要因は母親の教育期待のみに直接的な影響を与えていた。この点は、「重要な他者」である母親の進路決定意識が家族構造と子どもの教育期待との関連を説明する重要な媒介要因であることを示唆している。 (2)OECDの「生徒の学習到達度調査」(PISA)を用いた実証分析では、家族構造と子どもの学業達成(読解リテラシー)の関連性について、福祉レジームに分類される24ヶ国に分析対象を拡張した。階層線形モデル(HLM)を適用した結果、母子世帯に属することが子どもの学表達成に及ぼす影響は国家間で系統的な差異が看取され、日本は対象国のなかでもその影響度がアメリカと並んで高水準にある。こうした母子世帯の効果に関する国家間分散は、社会制度的要因(例:家族関係社会支出対GDP等)によってその半分程度が説明できた。他方で、父子世帯の効果は国家間で明確な差異はみられず、その影響度は母子世帯のそれよりも大きい国が大部分を占めていた。加えて、エスピン・アンデルセンが提唱した福祉レジームの内部でも母子世帯の効果量に大きな差異があることも確認された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、前年度の基礎的分析をもとに比較対象国を拡大した国際比較分析を行い、その一部を研究成果に結びつけることができた。本年度の研究成果は、国内の学会報告(3本)・学会誌等への発表(4本)である。これらとは別に現在、投稿論文1本の審査を受けている。 また、ミシガン大学ICPSRが開催しているSummer Programに参加し、最新の統計分析の理論的知識と実践方法を修得することができた。パネルデータを用いた計量的分析に関する口頭報告も行うことができ、今後の研究課題に応用することも十分見込まれる。 関連文献・国際比較が可能な社会調査データの収集も着実に進めていき、最終年度に向けた研究方針を定めることができた。以上を踏まえ、評価②「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる次年度は、第2の分析課題(ひとり親世帯出身者の社会経済的地位達成に関する日本的特徴)に重点を置いた分析を行う。具体的には、国際比較可能な他の社会調査データ(General Social Survey, European Social Surveyなど)を用いて、家族構造と教育達成・職業達成の諸関連について検討を加えていく。得られた研究成果は、前年度同様、国内外の学会報告や学術雑誌への投稿を通じて周知していく。 既存研究の理論枠組みのみでは、ひとり親世帯出身者の地位達成の国家間の相違を十分に説明できないことが本年度の分析から明らかとなったため、理論枠組みの修正を経験的データから導出することを試みる。それと同時に、国内外の社会階層研究・家族研究などの関連領域の文献レビューを通じて、本研究の学術的意義を強化していく。
|