最終年度にあたる本年度は、(1)ひとり親世帯出身者の社会経済的地位達成に関する国際比較、(2)家族変動論の視点による従来の社会階層研究の分析枠組みの限界と課題に関する理論的検討、の2点を中心に取り組んだ。各分析課題について、得られた主たる知見は次のとおりである。 ①OECDの「生徒の学習到達度調査」(PISA)を用いて、家族構造が子どもの読解リテラシーに及ぼす影響とその国家間分散についてマルチレベルモデルを用いて検証した。本年度は、新たに東アジアを含む家族主義国における親族ネットワークの強さを指摘する「家族の紐帯(family ties)」仮説を検証した。本仮説をひとり親世帯に占める祖父母同居率を代理指標として検証したところ、先行研究に反して同指標は家族構造の効果の国家間分散に対してほぼ説明力を有していなかった。分析結果は、日本においてひとり親世帯群の不利が相対的に大きいことを説明する要因として、子どもへの福祉供給を市場・家族に依存することで生じる「経済的剥奪」仮説により適合的なものであった。 ②「2015年社会階層と社会移動全国調査」(SSM2015)を用いて従来の世代間移動研究が見落としてきたひとり親世帯について、有子世帯の離別リスクと職業階層の関連に着目して検討した。イヴェント・ヒストリー分析の結果、近年の出生コーホートほど両親との離別リスクが高く、出生年が1990年代以降の子どもでは、約1割強が15歳時までに離別ひとり親世帯の形成を経験していた。こうしたひとり親世帯の形成には、夫の職業階層との密接な関連が観察され、上層・下層サービス階級と比較してそれ以外の職業階級では離別リスクが有意に高い。この結果は、出身階層として父親の階層的地位を用いると、低階層出身の人々が従来の分析枠組みから系統的に脱落する可能性が高く、そうした層が近年ほど増大する可能性が実証的に示された。
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