研究実績の概要 |
当該年度では、N-ヘテロ環状カルベン配位子を有するコバルト錯体Co-NHCを触媒とする電気化学的水素生成反応について、N,N-dimethylformamide(DMF)中、酢酸(pKa = 13.5 in DMF)をプロトン源としてその活性評価及び反応機構の解明に取り組んだ。サイクリックボルタンメトリーでは酢酸の添加量の増加に従い、Co(II)/Co(I)の還元波付近から不可逆的な電流の増大が観測された。これにより、低原子価Co(I)種に対するプロトン付加に基づくCo(III)-Hヒドリド中間種を経由する反応機構が強く示唆された。一方、定電位電解やデカメチルコバルトセンによる化学的還元によって生成した水素を定量したところ、系中に供給される電子がほぼ定量的(>93%)に水素生成に利用されることが判明した。また、本系における水素生成反応の理論的な平衡電位(-1.40 V vs. Fc/Fc+ at [AcOH] = 10 mM)および触媒電流の半波電位(ピーク電流値の半分の値に達する電位; -1.83 V vs. Fc/Fc+ at [AcOH] = 10 mM)から、過電圧(η)は430 mVと求められた。さらに、ピーク電流値の酸濃度/掃引速度依存性を用いた解析により、Co-NHC-1による水素生成反応の触媒回転頻度(TOF)が6800 s-1と決定され、Co-NHC-1は優れた触媒機能を有することを明らかにした。また、触媒電流曲線の解析、および熱力学的に算出される反応駆動力の値から、二電子目の還元であるCo(III)-H/Co(II)-Hの段階を鍵反応とするECEC機構により触媒サイクルが進行しているということが示された。
|