研究課題
本研究では現在の宇宙に見られる銀河の形態や性質の多様性の根源を理解すること、特にそれが銀河の棲む環境に従って変化する「銀河の棲み分け」について着目している。そのため銀河の棲み分けが顕著に見られる巨大銀河団の前身である原始銀河団を研究することで過去に及ぼした環境効果を調べてきた。昨年度は赤方偏移2で、原始銀河団領域の特に低質量銀河においてガス重元素量が一般的な値よりも高いことを発見し、そのことから遠方原始銀河団において低質量銀河では通常とは異なるガス流入・流出過程が行なわれていることを指摘した。今年度は環境バイアスを受けやすい低質量銀河に(星質量が10の10乗太陽質量以下の銀河とする)より焦点を当てた研究を行った。ここで問題となるのが、低質量銀河は赤方偏移2を超える遠方宇宙では非常に暗く、性質を調べるどころか検出することすら容易ではないことである。そこで本研究はライマンアルファ輝線という静止波長1216Åの輝線を使うことで若い低質量銀河を検出することを試みた。これは一般的には星間ダストに吸収されて見えないが、ダスト生成の進んでいない若い銀河からは観測できる明るさで放射されるためである。結果47天体のライマンアルファ輝線銀河の検出に成功し、うち9割は低質量銀河で、目的通り大量の低質量銀河を発見できた。しかしながら、原始銀河団中心部においてライマンアルファ銀河はほとんど検出されず、より質量の高い星形成銀河に対して異なった空間分布が見られた。一方で違う赤方偏移2.2にある原始銀河団においてはこのような異なる空間分布は見えず、ほぼ同じ分布をしていた。この違いはライマンアルファ銀河が低質量銀河の指標として非常に優れているものの、その放出過程は非常に複雑で、銀河周辺の環境から強く影響を受けていることを示唆している。今回得られた結果の一部を査読ありの国際稿論文として現在投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
銀河団、空洞領域などが織り混ざった宇宙大規模構造に沿って、銀河の形態や性質が変化する原因を特定するため、申請者はこれまで、その過去を写し出す遠方原始銀河団を調べてきた。その際、近赤外分光観測や可視域に見られるライマンアルファ輝線など様々な物理情報を駆使し、実際得られた観測量が高密度環境で異なる振る舞いを示していることを次々に捉えることに成功した。そしてこれまで申請者は筆頭著者として4つの学術論文を執筆し、うち3編はすでに発行されている。これらの成果だけを踏まえれば本研究は期待以上に進展していると言えるが、環境ごとで異なる物理性質が具体的に何を示しているのかについてはまだ曖昧な点が多く、全ての結果を説明出来る統一的な結論にはまだ迫れていない。考え方によってはむしろ新たな問題が次々出てきていると捉えることもできる。以上2つの良い点・悪い点を踏まえて、研究進捗としては決して遅れていないものの、当初想定していたよりも銀河形成の環境依存性は様々な物理量と複雑に絡んでおり、本質的な部分において得られた結果以上には進展できていないと考える。
今年度は環境効果を強く受けると期待される低質量銀河に焦点を当て、低質量銀河検出に有効なライマンアルファ輝線探査を活用して銀河探査および性質の比較を行った。しかし、実際にはライマンアルファ輝線の放出過程自体が環境に依存しており、そのため検出方法自体が強く環境依存していることがわかった。従ってこの手法によって発見された低質量銀河は銀河の棲み分けを簡潔に理解する上で望ましくなく、むしろ解析を複雑にしてしまっている。そのことから申請者含む研究チームは環境に依存しにくく、星形成していればどの銀河も放出するH-Alpha輝線を指標とした低質量銀河探査を行った。これはもともと過去に我々が原始銀河団探査に用いていた手法で、明るいH-Alpha輝線光度を持つ天体に対して有効である。ただし質量の重い星形成銀河ほど通常H-Alpha輝線をより明るく放出しているため、低質量銀河探査には元来あまり向かない手法である。ここで我々は通常行われる観測時間のおよそ3,4倍の観測時間を投資することで暗いH-Alpha輝線銀河、つまりは低質量銀河をも捉えることに試みた。このアプローチはライマンアルファ輝線を狙った観測手法に対して観測効率が悪い一方で、環境にバイアスされることなくある明るさまでの星形成銀河を網羅的に捉えられる決定的な利点がある。申請者はこの観測結果の解析を担当しており今年度の博士論文および学術論文にまとめられるよう取り組む予定である。
すべて 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
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