研究実績の概要 |
遷移金属触媒を用いたクロスカップリング法は炭素骨格を構築する手法として最も信頼性の高い方法である。しかしながら、現代の科学技術では、(1) 有機化合物から数工程で調製される有機金属化合物をカップリング剤に用いる (2) 環境面で悪影響があるハロゲンを含む有機ハロゲン化物を他方のカップリング剤に用いるなど、依然として大きな制約がある。近年当研究室ではニッケルやパラジウムを触媒に用いた芳香族エステルの脱カルボニル化を伴う新規ビアリール構築反応を開発している。すなわち芳香族エステルとアリールボロン酸の鈴木宮浦カップリング、1,3-アゾールとのC-Hカップリングである。芳香族エステルは天然に豊富に存在する芳香族カルボン酸から一段階で容易に調製できる上に、反応後の排出物にハロゲンが含まれないため、環境調和性に優れた反応である。つまりこれらの反応は(1)、(2)を満たす次世代型反応であると言える。さらに芳香族エステルをアリール源に用いた反応例は稀有であり、従来の合成化学に一石を投じ得る新たなフィードストックとして期待できる。 本研究では、未だ例の少ない芳香族エステルをアリール源に用いた分子変換反応の開発に取り組んだ。その結果、当研究室で開発した二座ホスフィン配位子、3,4-ビスジシクロヘキシルホスフィノチオフェン(dcypt)とニッケルを併せ用いたとき、芳香族エステルの脱カルボニル型エーテル化反応が進行することを見出した。本手法では複雑骨格を有する芳香族エステルを用いた場合も問題なくエーテル化が進行する。さらに芳香族チオエステルを用いることでジアリールスルフィドの合成も可能である。
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