本プロジェクト全体の目的は、帝国崩壊後沖縄における南洋群島引揚者の社会史を明らかにすることであった。本年度は本プロジェクトの最終年度として、以下三点の活動を行った。第一に、帝国日本の敗戦・崩壊以後に南洋群島から沖縄へ引き揚げた50名のひとびとの証言集『はじまりの光景―日本統治下南洋群島に暮らした沖縄移民の語りから―』を発刊することにより、2006年以来11年に及んだフィールド・ワークの成果を社会へ還元した。本証言集を含む二冊の証言集は、日本国内の公立図書館(国会図書館・都道府県立図書館・国立大学法人図書館)のみならず、台湾・韓国・ハワイ・アメリカ等の図書館にも所蔵される運びとなり、国際的にも高い評価を得ている。第二に、日本オーラルヒストリー学会で民俗学者・社会学者とワークショップの場を持つことにより、聞き取りと歴史叙述をめぐる問題について議論を深めた。第三に、雑誌『新しい歴史学のために』の特集「移民の政治史」に、戦後沖縄における南洋群島引揚者の共同性を考える上でキーとなる世代(1920年代に南洋群島へ渡った<開拓世代>)についての論考を寄稿した。 以上、三点を通じて、「戦後沖縄社会」を<帝国以後>という視点から捉え直すことの重要性を指摘し、南洋群島引揚者(帝国からの引揚者)の経験を通して見える新たな沖縄戦後史像の可能性を具体的に示すことができた。
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