研究実績の概要 |
第一年度は主に次の二つのテーマで研究を実施した。 1.内分泌系による成長制御機構の数理的解析 今回、我々は内分泌系によって可能な成長制御機構を網羅的に調べるため、身体-器官サイズ比を適応度として設定し、そのもとで薬物動態に用いられる2コンパートメントモデル(ホルモンが身体と器官の間を行き来する様子を表す常微分方程式系)の最適なパラメータを遺伝的アルゴリズム等によって求めた。予備的結果として、ケイロン様の成長抑制因子だけでなく、インスリン/IGF様の全身性成長因子も、適切なパラメータの下では器官-身体の比を保つメカニズムとして働くことがわかった。 2.ショウジョウバエ属の成長に関する基礎データの収集 理論的に予測された成長制御メカニズムを実験的に検証するため、理化学研究所多細胞システム形成研究センターにて西村隆史チームリーダーの協力の下、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)を用いて成長に関する基礎的なデータを取得した。特に、完全変態昆虫で身体サイズを決定する三つのパラメータ「臨界重量(CW; Critical weight)」「成長率(GR; Growth rate)」「最終成長期間(TGP; Terminal Growth Period)」を様々な栄養・温度状態に於いて取得した。CWを求めるには様々な重量の幼虫を飢餓状態に置き、蛹になる時間を計測する必要があるため、これを効率的に取得する計測系(マルチウェルプレート上の飢餓培地に幼虫を並べ、タイムラプス撮影を行う)を構築した。また、Drosophila 属のmelanogaster以外の種(willistoni, simulans, pseudoobscura)を生育するのに最適な条件を検討し、これらの種においても、melanogasterと同様に基礎的な成長データを取得した。
|
今後の研究の推進方策 |
今回の解析では常微分方程式の定常状態のみに注目していたので、今後はサイズが動的に変わる発生過程に注目し、サイズが停止すること自体のメカニズムについて解析していく予定である。また、内分泌系以外のシステム(傍分泌系・接触分泌系)によって制御されるメカニズムについても解析していく。 また、実験でこれまで注目したDrosophila種はいずれもサイズ的にmelanogasterより小さい種であったため、今後はmelanogasterよりも大きな種(virilis, repleta, funebris)についても成長データを収集していく予定である。また、現在のところ身体サイズの成長曲線は得られているが、器官(翅成虫原基)サイズについては実験的困難から二齢以前の幼虫においてデータを取れていない。今後は成虫原基のサイズを効率的に計測する実験手法を検討していきたい。
|