研究課題/領域番号 |
15J04941
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
塩澤 康平 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 一般均衡モデル / 非対称情報経済 |
研究実績の概要 |
本研究では非対称情報経済の一般均衡理論を取り扱っている。特に、レモン市場型非対称情報経済の一般均衡モデルとして典型的な先行研究の用いる「プール市場」の仮定を、静学的一般均衡の標準的なモデルであるArrow-Debreu生産経済モデルに導入し、その均衡存在条件と均衡の性質を分析している。また、モデルの分析結果を元に、モデルのより経済学的に自然な定式化を試み、その拡張モデルの均衡存在条件を分析している。 本研究では、上記モデルの構成要素であり、先行研究においても採用されている「各主体の供給量上限」を表すパラメータの存在が、非対称情報経済の分析に対して本質的であることを示した。本研究の分析により、上限のパラメータを持つモデルにおいて均衡の配分がパレート最適でなければパラメータが直接均衡配分を決定してしまうことが示された。これは、パレート最適でない状況が典型的である非対称情報経済の分析において、モデルの持つ本質的な恣意性を含意しているとともに、この上限を単に取り去ることは非対称情報経済をこのモデルで分析する意義をも取り去ってしまうことを示している。本研究ではさらに、この供給量上限パラメータをモデルから完全に取り除く事はできないことを示した。供給量上限のもつこのような本質的な問題を解決するため、本研究ではこの上限を単に取り去ってしまうのではなく、自然なコストをモデルの中に組み込むことで内生化することを試み、その試みに成功した。モデルを拡張することで、各主体の供給量上限は主体のもつ供給技術によって内生的に決定されることとなり、先行研究の持つ欠点を回避することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、本研究の基本となっているレモン市場型非対称情報経済の一般均衡モデルとして典型的な先行研究の用いる「プール市場」の仮定を、静学的一般均衡の生産経済モデルに導入し、供給量上限パラメータを仮定したまま分析をすることが目標であった。しかし、その分析が進むにつれて、モデルのもつより本質的な問題点が明らかとなった。特に、上限のパラメータを持つモデルにおいて均衡の配分がパレート最適でなければパラメータが直接均衡配分を決定してしまうことが示された。これは、このモデルによって非対称情報経済を分析する際の本質的で不可避的な問題点を指摘するものであり、先行研究すべてにおいても共有されている問題点であるが、これまでに一度も指摘されてこなかったものである。したがってこれは、非対称情報経済のための一般均衡モデルを構築するという本研究の課題に対して大きく貢献する結果である。また、当初の目的では本研究の基本となっている上限パラメータモデルに関する分析のみを論文としてまとめる予定であったが、現在までに、上限パラメータモデルの持つ問題点を理論的に指摘する分析、上限パラメータを取り除くことができないことを数値的に指摘する分析、市場取引の自然なコストを導入することによる拡張モデルの定式化、および、拡張後のモデルに関する均衡存在条件の分析という、より統合された観点から研究内容を論文にまとめることができた。当該論文は、大阪大学大学院経済学研究科および大阪大学大学院国際公共政策研究科のディスカッション・ペーパーとして公表することで、これまでに関連分野の研究者から有益なコメントを得ている。また、セミナー等による研究発表時をすることで当該分野の研究者より有益なコメントを得ている。さらに、当該論文を国際査読誌に投稿中であり、現在は編集者および査読者からのレポート・コメントを元に改訂作業中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、アドバースセレクション型の非対称情報経済の問題を扱う一般均衡モデルが持っていた、本質的な欠点が明らかになり、その問題点を解決するための拡張モデルを提案した。しかし、先行研究においては、本質的な欠点を有したままのモデル(上限パラメータモデル)によって、スクリーニング・モラルハザードといった非対称情報経済の基本的な問題が分析されているのみである。上記のように、上限パラメータを用いたモデルは、非対称情報経済の分析において本質的な欠点を有しており、この欠点が、分析する問題(スクリーニング・モラルハザード・アドバースセレクション)に依存して変化することが当然考えられる。そこで、問題に依存して上限パラメータのもたらす欠点がどのように変化するかを詳細に分析することが今後の方策として挙げられる。また、上記の拡張モデル、すなわち、上限パラメータをより自然なコストに置き換えることで拡張したモデルによって、スクリーニング・モラルハザードといった問題の分析結果が、先行研究の結果とどのように変化するのかを調べることも今後の課題である。また、均衡の存在定理の一般化に関しても、当初の目的であった上限パラメータ型の基本モデルにおける分析に加えて、市場取引にかかる自然なコストを導入した拡張モデルにおいて、その条件を調べることが必要である。特に、現在までの研究で得られている均衡存在条件を構成するうちの一つである「消費者の効用関数の強い単調性」の仮定が、この一般均衡のフレームワークでモラルハザード問題を取り扱うためには強すぎることが明らかになっている。したがって、基本となる上限パラメータモデルおよび自然なコストを導入した拡張モデルにおいて、この仮定を「単調性」にまで弱めて、均衡存在を保証することができるかどうかを明らかにする。
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