本研究は、市場経済全体を考慮する一般均衡理論の枠組みにおいて、非対称情報経済のモデルを構築することを目的にしている。ここで言う非対称情報経済とは、買い手と売り手との間に、財の質に関する情報の非対称性が存在する状況を意味する。 これまでの研究においては市場取引に掛かるコストに対する仮定として、財を市場に提供する際に特定の財がコストとして完全に消滅してしまうことを排除していた。したがって労働のような財の存在を仮定する事ができず、市場全体を考慮する経済モデルとしての妥当性を欠いてしまう。そこで本年度は、まずこの仮定を緩める方向での均衡存在定理の一般化を検討した。これにより、特定の財が完全に消滅していても、各市場に正の取引量を提供できる技術を保有していれば経済の均衡が存在することを明らかにし、一般化された仮定のもとで均衡の存在証明を与えた。また、この仮定を満たさない場合に均衡の存在しない例を構築し、この仮定が結果に対して本質的であることも明らかにした。 以上の結果は論文「General Equilibrium Model for an Asymmetric Information Economy without Delivery Upper Bounds」に纏められている。現在は査読付き国際学術誌の改訂要求を承けて改訂および再投稿済みの状態である。この分析は、現在まで得られていた成果を経済モデルとしての妥当性の観点からさらに精緻化するものであり、現在までに得られていた成果と併せて学術的にも非常に重要である。また、本研究の「市場経済全体を考慮した非対称情報経済分析のための一般均衡モデルの構築」という目的に対する高い成果であると言える。
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