研究課題
平成27年度は開殻ナノ構造体が持つ高次構造である芳香族性、曲面性に着目し、実在インデノフルオレン骨格における開殻性、芳香族性、三次非線形光学(NLO)物性の間の空間的相関関係の解明、および、フラーレン部分骨格の開殻性、三次NLO物性の解明を行った。以下に詳細を述べる。1. 開殻ナノ構造が持つ高次構造の一種として六員環以外の員数環を含む共役構造が挙げられ、その実在構造の最も単純なものとしてインデノフルオレンがある。我々はこのインデノフルオレンへと着目し、開殻性、芳香族性、及び三次NLO物性の空間的な相関関係を検討し、これらの性質の間に空間的な相関関係が存在することを発見した。これは将来的な芳香族性に基づいた開殻性の制御という開殻ナノ構造体特有の新規なNLO物質設計指針の構築へと寄与すると考えられる。この結果は国際的な学術誌に掲載済みである[K. Fukuda et al., J. Phys. Chem. A 119, 10620 (2015)]。2. 開殻ナノ構造体の持つもう一つの高次構造として曲面性を持つ擬二次元的な骨格が挙げられる。我々は曲面性を持つフラーレン部分骨格へと注目し、その構造-NLO物性相関を解明することとした。その結果、開殻性が発現するフラーレン部分骨格が著しく大きなNLO物性を示したほか、閉殻系においては一般にπ共役面の次元性が低いほど三次NLO物性が大きくなることを見出した。これらの結果は開殻性の発現が高い次元を持つ構造においても有効であることを示すのみならず、擬二次元的なπ共役面を持つ新規なNLO分子系の構造特性相関の解明へと寄与すると考えられる。この結果は国際的な学術誌に投稿中である[K. Fukuda et al. submitted]。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画においては開殻ナノ構造の持つ高次の構造として芳香族性の検討を行うことが平成27年度の目標であったが、実際には他の高次構造である曲面性を持つπ共役系の検討を行うことができた。具体的な内容については実績概要へと記載した通りであるが、この点において、平成27年度の研究では当初の計画以上の進展があったと結論づけることができる。これを達成することができた要因としては、特別研究員奨励費によって導入した高速かつ大規模メモリの並列計算機によって計算の速度が向上したためであると考えられる。平成27年度に得られた研究結果は著名な国際論文雑誌へ投稿中、もしくは掲載され、国際学会での発表を行っている。
平成27年度に検討した開殻ナノ構造体の高次構造である芳香族性、曲面性と開殻性、非線形光学物性の間の相関関係をより一般的なものへとするために、さらに多様な構造の分子系へと検討対象を広げる。これによって開殻ナノ構造体が持つ高次構造と開殻性、非線形光学物性の間の構造特性相関を明らかなものとする。さらにこの構造特性相関から、開殻ナノ構造体における優れたNLO物性の設計指針を構築し、これに基づいた具体的なNLO分子の設計を行う。一方で、実験化学者との共同研究は、理論、計算機実験にのみ基づいた研究では得られない化学的直感、実際のものを扱うことによってのみ得られる感覚に触れることができるという意味で非常に有意義なものである。平成28年度にはこうした開殻ナノ構造体を実際に合成、測定する研究者との共同研究を行う予定であり、実在系の測定結果と照らし合わせることで計算の妥当性、および構築した設計指針の妥当性の検証を行っていく。以上のように、理論計算のみならず、実験系との共同研究を通じ、開殻ナノ構造体における構造特性相関のより深い理解、NLO物性の設計指針の深化を狙い、幅広い視点からの検討を行う予定である。これを行う上で必須となる実在の開殻ナノ構造体は非常にサイズが大きいため、これらを対象とした計算は非常に多くの計算量を要する。ゆえに、本研究費により計算機を追加購入し、これを実行する予定である。また、得られた研究結果は国内外の学会において発表し、共同研究の結果を含め、国際的な学術誌に投稿する予定である。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件)
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