2016年度は、特に、非国際的武力紛争に関する武力紛争法と国際刑事法体系との関係に焦点を当てた。 冷戦後の民族紛争について、安保理決議によりアドホック国際的刑事裁判所が設置された。この革新的な動きは、特定の紛争における対象に処罰が留まる限り歓迎されたが、対象が一般化することが諸国から強く懸念された。その懸念は常設の国際刑事裁判所設立過程で抑制的要素として現れた。国際刑事裁判所は犯罪の被疑者国籍国の同意がなくとも訴追可能である。このような革新的な管轄権規定は一部国家の反発を生む。他方、ローマ会議における、侵略犯罪の管轄権行使の延期決定や採択された戦争犯罪規定から、国際刑事裁判所規程が意外なほど保守的であり、国際的刑事裁判の保守化傾向は、非国際的武力紛争における戦争犯罪の扱いに顕著に現れた。 武力紛争法諸条約では国際的/非国際的の武力紛争で適用可能な規範が異なるが、アドホック裁判所では全ての戦争犯罪の不処罰防止という安保理の政策的目標と一致し、武力紛争の区別をなくすone-box approachを採用し、非国際的武力紛争にも戦争犯罪を観念できるとした。他方、その後の国際刑事裁判所規程では、two-box approachの導入に代表されるように、アドホック裁判所の革新的な判例法理から離れ、武力紛争法の枠組みに沿う形で多くの点で保守化した。近年の新しい展開として、常設化した国際的刑事裁判における革新性の再出という傾向が指摘できる。国際刑事裁判所は、基本的に国家の同意枠組みの下で行動し、保守化傾向は揺らがないが、革新的要素は限定的範囲で存続している。 この研究成果は、2016年度に世界法学会若手研究会や国際安全保障学会において研究報告を行った。また「国際的刑事裁判の革新性と保守性」と題した論説を『国際安全保障』に投稿中である。
|