研究課題/領域番号 |
15J05082
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
末木 健太 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 台風 / 竜巻 / 対流有効位置エネルギー(CAPE) / ストームに相対的な環境場のヘリシティ(SREH) / エントレインメント |
研究実績の概要 |
竜巻を発生させた台風の特徴を明らかにするため、気象庁の全球再解析JRA-55を用いたデータ解析を進めた。本研究では、雲内部の回転(メソサイクロン)を伴う特殊な積乱雲スーパーセルから竜巻が生じていたと仮定し、スーパーセルの起こりやすさの指標となる2つのパラメータ、対流有効位置エネルギー(CAPE)とストームに相対的な環境場のヘリシティ(SREH)を用いて竜巻を伴う台風の構造を調べた。CAPEは積乱雲の発達に必要な大気の不安定度を表すパラメータ、SREHは積乱雲内部でメソサイクロンが発達するのに必要な水平風の鉛直シアに関するパラメータである。解析のため、日本で竜巻を発生させた台風(Tornadic Typhoon:TT)と竜巻を発生させなかった台風(Non-tornadic Typhoon:NT)を定義し、両者を比較した(解析期間:1991-2013年)。 (1)CAPEによる解析 先行研究では、台風などの熱帯低気圧に伴う竜巻の発生とCAPEの増大があまり対応しないことが指摘されていたが、本研究では、積乱雲の上昇流が周囲の空気を取り込むエントレインメントの効果を加味したCAPE(Entraining CAPE:E-CAPE)を計算し、TT周辺のE-CAPEの分布が竜巻の発生分布とよく一致すること、TTはNTに比べE-CAPEが有意に大きいことを示した。また、TTのE-CAPEが大きいのは、高度5km程度までの気温減率がNTに比べて大きく、より不安定な成層を持っていたためであることを明らかにした。 (2)SREHによる解析 研究代表者のこれまでの研究により、TTのSREHがNTよりも大きいことは既に明らかとなっていた。本研究では、TTのSREHを大きくする要因について台風構造と総観場の観点から詳しく調べ、地表面付近では台風渦自身の大気境界層における鉛直シアが、高度1km以上では台風渦に重なる環境場(総観規模)の風の鉛直シアが、TTのSREHを大きくする主要因であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究実施計画では予定していなかったが、エントレインメントの効果を加味したCAPEによる解析が一定の成果を上げた。本解析の結果は、台風などの熱帯低気圧(TC)に伴うスーパーセルの発生において、エントレインメントの効果が重要であることを統計的観点から示しており、TC内で発生するスーパーセルの発生機構と発生環境を明らかにする一助となるものだ。 SREHによる解析では、台風周辺のSREHを、台風強度と総観規模の風速場から説明することに成功した。この結果は、TCに伴う竜巻の発生を、TC構造や総観場の状況から定量的に評価するという研究目的に適うものである。 平成27年度は、TC環境下のスーパーセル・竜巻の理想化数値実験を行うまでには至らなかったが、上記の再解析データを用いた解析の結果は、次年度に行う数値実験の設定と解析手法を検討する上で基礎となるものである。
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今後の研究の推進方策 |
再解析データから得られた、台風周辺における竜巻の発生環境場を用いて、スーパーセルと竜巻を再現する水平解像度50~100m程度の理想化数値実験を行う。この際、スーパーセルが周囲の環境場からどのような影響を受けるのかという点に着目し、鉛直シアのある環境場の風の平均エネルギーから積乱雲の擾乱エネルギーへの変換プロセスや、積乱雲の発達に対する浮力の寄与をエントレインメントの効果も含めて定量的に評価する。数値実験の結果をもとに、TC環境下における竜巻の発生予測の観点から、データ解析で用いたSREHやエントレインメントの効果を加味したCAPEの妥当性を理論的に考察する。また、環境場の水平風、気温、水蒸気量の鉛直分布を変化させる感度実験により、スーパーセル・竜巻の発生に大きく寄与する環境場の要素を明らかにしていく。
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