本研究はショウジョウバエ属の求愛行動を材料に、行動の種間差を生み出す神経基盤を明らかにすることを目的としている。モデル種であるキイロショウジョウバエではfruitless(fru)と呼ばれる遺伝子の働きによって求愛行動が生み出されることが知られている。この知見から、fruが求愛行動の種間差の形成に関与している可能性を考えた。昨年度までに、キイロショウジョウバエとは異なる求愛行動を示すDrosophila subobscura(D. subobscura)にCRISR/Cas9システムを用いて、fru遺伝子座へ蛍光タンパク質マーカーを含む光遺伝学ツールの導入に成功している。 本年度は、作製したトランスジェニック系統を用いて蛍光タンパク質マーカーに対する免疫組織化学法を用いてfruを発現する神経回路を可視化し、それをキイロショウジョウバエのfru発現神経回路の構造と比較することに成功した。この取り組みによって、脳内のfruを発現する神経細胞の一部はD. subobscuraでのみ観察され、キイロショウジョウバエには見られないことを明らかにした。この結果は、異なる2種間で求愛行動の実現に関わるfru神経回路の構造が変化していることを示唆している。さらに、光遺伝学的な手法によって、fruを発現する神経回路を強制的に活性化するとD. subobscuraに特異的な求愛行動の要素が観察された。 また、改変した光遺伝学ツールを持つトランスジェニック系統を作製することによって、モザイク解析法をD. subobscuraに適用することに成功した。これによって、本種に特異的に見られる求愛行動に関わる少数のfru発現細胞を得ることに成功した。
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