本研究では、複製酵素をコードしたRNA (RNA1) と無細胞翻訳系、区画を用いて構築された人工RNA複製システムに、新たな遺伝子をもつRNA2を導入し、遺伝情報の増加がシステムの安定性や進化にどのような影響をもたらすかを調べた。昨年度までに、NDK合成酵素をコードしたRNA2を用いて、2種類のRNAが共働して複製するシステムが完成し、またそれは複製に合わせて希釈率を調節した特定の濃度領域で持続的複製が可能であるとわかった。このとき、変異により複製が過度に速くなった利己的分子の出現、共働するRNAの区画内での非共存を回避していると考えられる。
本年度は主に持続複製の詳細なメカニズムの解明、および長期複製における協働するRNAの進化について調べた。まず実験を模擬したシミュレーションから、(1) 持続的な複製は、複製開始時のRNA濃度が必須な二種類の分子の共存が達成される領域にあり、その後利己的分子がほとんど出現しない低濃度領域へ遷移することで達成される可能性、(2) 不均一な区画の融合分裂により、一度複製を開始すると、二種類のRNAが共存できず複製を開始できない低濃度領域でも共存が可能となり、複製が持続可能であると示唆された。
また長期継代を経た二種類のRNAは変異を蓄積し、進化が起きていた。このとき多くのRNA1およびRNA2クローン配列が遺伝子の機能を失っていたが、それにも関わらず集団全体は安定的に複製を続けており、変異に対するシステム全体の頑強性が示された。さらに集団で最も濃縮された変異について調べたところ、その変異だけを持つ二種類のRNAは、「セット」としてより自己複製するようになった一方で、パートナーが元のRNAの場合はその複製を阻害した。つまり複雑化システムは、両方のRNAが良く複製するよう共進化することで、システム全体としても進化できるという新たな知見が示された。
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