研究課題
本年度はケーススタディとして、すでにALMA望遠鏡サイクル2において観測提案が採択されていた近傍の代表的な活動銀河NGC1068の一酸化ケイ素 (SiO)の複数回転遷移輝線の観測結果を解析した。データ解析には研究経費に計上した高性能データ解析用コンピュータ (Mac Pro)を用いた。解析の結果、SiOのすべての輝線が十分な信号雑音比 (SNR)で検出された。SiOのすべての輝線はNGC 1068の活動銀河核 (AGN)の周囲に等方的に分布しているのではなく、AGNの東側のノット (以降E-knot)に偏って分布していることが明らかになった。提案した新診断手法では、X線卓越領域 (XDR)によってSiOが卓越する場合はAGNに対して等方的に分布することが予想されたため、以降はE-knotのSiOはジェットやアウトフローによるショックによって生成されたと仮定し、ボルツマン図によるSiO存在量と回転温度の推定を行った。その結果、E-knotのSiOは2つの異なる回転温度を持っていることが明らかとなった。同様に求めた一硫化炭素 (CS)の柱密度から、CSに対するSiOの存在量[SiO]/[CS]を計算するとおよそ0.3となった。これは他の近傍銀河の値 (<0.1; Aladro et al. 2015)に対して大きく、E-knotのSiOの存在量が顕著に増大していることが明らかとなった。また、他の観測によるアウトフローの分布との比較から、SiOが卓越するE-knotは鉄イオン ([Fe II])でトレースされる狭輝線領域 (NLR)アウトフローの縁と空間的に重なっている (Barbosa et al. 2014)ことが明らかとなった。以上より、NGC 1068ではAGNからのアウトフローやジェットによる強いショックの影響が見えていることが明らかとなりつつある。
2: おおむね順調に進展している
本年度に予定していたNGC 1068のケーススタディは、ALMA望遠鏡サイクル2によって採択され、すべてのデータが本年度中に申請者の手元に届いたため、当初予定していた解析を問題なく行うことができた。ただし、ALMA望遠鏡の観測時期の都合により、4輝線のうち2輝線(SiO J=6-5, J=5-4)が2015年度開始以前に、残り2輝線 (SiO J=3-2, J=2-1)が2015年度後半にデータが得られたため、すべての輝線を利用した解析及び考察は2015年末から2016年始にかけて集中的に行った。そのため、研究成果の国際会議での発表は終えているものの、学術論文は次年度の前半での出版に向け執筆途中である。
NGC 1068ではAGNからのアウトフローやジェットによる強いショックの影響が見えていることが明らかになりつつある。ただし、アウトフローの分布との関連を詳細に明らかにするためには、現状の空間分解能の2倍以上 (15 pc以下)の観測が必要である。さらに、XDRによるSiOの生成も現状では完全に棄却できないため、XDRの影響が小さいと思われる他の近傍銀河のAGNで同様のSiO分布が得られるかどうかを確かめる必要がある。そこで、ALMA望遠鏡サイクル4において、NGC1068とこれに対しX線光度が2桁以上小さなNGC1097の2つの近傍銀河を対象に15-30 pc分解能のSiO観測を提案し、SiOとアウトフローとの関係性を明らかにする予定である。
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すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
The Astrophysical Journal
巻: 808 ページ: 121
10.1088/0004-637X/808/2/121
Astronomical Society of the Pacific Conference Series
巻: 499 ページ: 107