パワーモジュールに印加されるような立ち上がりが10 nsのオーダの電圧波形を繰り返し印加できる電源回路を構築することで、種々の印加電圧波形下のパワーモジュール中の絶縁劣化現象を調査し、さらにそれを診断する方法を検討した。また、SiCチップ端の電圧分担特性を取得することに成功した。 量子化学計算や分子動力学計算および、モンテカルロシミュレーションを用いたマルチスケールな、かつ、その場しのぎのパラメータを用いない計算方法によって高分子絶縁材料における電荷輸送特性を評価した結果、有機結晶のみならず絶縁材料の非晶領域において計算された電荷移動度が実験結果を良好に再現することが確認できた。さらに、代表的な高分子絶縁材料であるポリエチレンにおける正孔輸送の描像が以下のように明確になった:結晶状態では、静的なエネルギー乱れが小さいために、電荷輸送における電荷と分子の振動の相互作用に関する量子論的な効果が大きい。また、持続長よりも長いアルカン鎖の結晶では常温において分子間の振動のモードによって電荷の輸送が促進される領域にある。これらの効果によってポリエチレン(アルカン)材料は電子カップリング項が有機半導体材料と比べて一桁以上小さいものの、有機半導体材料に近い大きな移動度(~0.1 cm^2/Vs)を持つ。非晶状態では構造的な乱れによる電荷の局在化の度合いが強く、分子の再配向の影響が大きくなる。さらに、電荷の局在化領域の特徴長さにバラツキが生ずるため、正孔のホッピング前後のホッピングサイトエネルギーがバラつき、エネルギー的に不利な電荷移動が移動度を支配し、結果として非晶領域の正孔移動度は小さくなる。 以上により、実験および、シミュレーションの双方から絶縁材料の選定指針や、設計指針を与えられることが示された。これらは固体絶縁材料の高耐圧化や高寿命化に資するものである。
|