平成29年度における主な研究結果は次のものである。 (1) 弾性曲線の境界値問題:ピアノ線など弾性棒の形状を求めるための変分モデルは非常に古典的であり、Euler の 1744 年研究を皮切りに分野の垣根を越えて研究されている。しかしながらその理論的理解は未だに不明瞭な部分が多く、例えば与えられた境界条件(端点の状態)から解の一意性や形状を求める結果は、閉曲線など簡単な場合を除いてほとんど知られていない。本研究では Euler と全く同一の問題に取り組み、新しい成果を得た。特に、端点の位置を離していく特異極限におけるエネルギー最小解の詳しい解析に成功した。主結果として、この極限における解の端点付近の漸近形状をリスケール収束の意味で求めた。この収束は昨年度の時点では C^1 級の意味で求まっていたが、これを C^∞ 級収束にまで向上させた。この進展は非常に重要であり、実際この結果を用いることで、ある境界条件の範囲におけるエネルギー最小解の一意性を示すことにも成功した。 (2) 弾性曲線の自由境界問題:また上記の特異極限の理論を推し進め、弾性曲線の自由境界問題においても成果を得た。この問題は初年度から一貫して取り組んでいる問題であり、物理的には一次元波状基板に付着する弾性膜の変分モデルに相当する。本年度は初年度にも考察した曲げ弾性を小さくする特異極限を再考察し、より進んだ成果を得た。具体的には、まず初年度でグラフ曲線の場合にのみ得られていたガンマ収束の結果を一般の周期曲線の場合にまで拡張した。またこのガンマ収束から導かれるエネルギーの漸近展開を元に、ガンマ収束の一般論よりも更に進んだ解析を行い、エネルギー最小解の列に関してより強い収束を得ることにも成功した。系として、基板が滑らかかつ曲げ弾性が十分小さければ、エネルギー最小解は基板と同程度には平らであることを示した。
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