研究課題/領域番号 |
15J05175
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤村 一郎 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 吉野作造 / 大正デモクラシー / 社会理論 / 日中関係史 / 東アジア思想 |
研究実績の概要 |
初年度は吉野作造の日中政治思想のリンケージを探求するために3つの基礎的な調査及び分析を行った。 第1は、吉野の政治思想を「社会」の観点から再検討してみることである。第2は、吉野が当時の中国でいかに論じられていたのかである。第3は、国内外の大正デモクラシーや吉野作造研究者のネットワークをつくりつつ、同時に従来の大正デモクラシー研究の再検討を行うことである。 第1の「社会」の観点について。吉野に内在するトランスナショナルな契機を考察するには、彼の「社会」概念とともに「社会」に隣接する概念についての把握が不可欠だと考える。吉野の無産政党論や対外政策論が「社会」概念と連関していると考えられるからである。吉野の「社会」論にアプローチするには、彼がユニテリアンであるということや「神学」や「共同体」についての観念を把握することが重要となろう。以上の概念について、吉野の筆によるキリスト教、無産政党論、国家論関係の論説や文章を中心に分析した。 第2の吉野が中国で当時いかに論じられていたのかについてである。以下の文献について情報を収集し解析中である。北京において発刊されたキリスト教系雑誌である『生命』に掲載された吉野作造講演・傳夢良翻訳「日本之新思潮-自由主義之発展及其最後之勝利」である。その他下記の人物もあわせて調査中である。陳薄賢、陶履恭、高一涵、馬伯援などである。 第3の大正デモクラシー研究のネットワーク形成については、中国(安徽省:金哲教授)・韓国(ソウル:韓善程教授)において専門家と議論をおこなうことで東アジア思想史の視点を模索しつつ、他方、国内では研究をリードした何人かの著名な碩学らに直接インタビューすることで従来の研究を再検討するなどの活動をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
吉野作造に関する国内における調査は、東京大学近代日本法政史料センターの明治雑誌新聞文庫(吉野文庫)や国立国会図書館などの吉野関連文献を参照できたことから、従来見落とされてきた吉野自身の筆による書き込み、あるいは従来注目されてこなかった所蔵文献を通じて、本研究での吉野に関する新たな知見が少しづつ得られつつある。また吉野作造の「政治史」講義録が2016年1月に刊行されたことは、研究環境をより豊かにしている。 ところが他方で、国外における調査では、中国国家図書館・中国国家数字図書館においてデータベースおよび画像データを参照しえたが、電子データだけでは調査に限界があり、かならずしも満足のいく資料状況にない。次年度は、現地へ赴いて実際に現物を手にし、他の関連文献文献調査を行う必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に実施した三つの基礎的な調査及び分析は、第1に、吉野の政治思想を「社会」の観点から再検討する。第2に、吉野が中国で当時いかに論じられていたのかについて調査・分析をおこなう。第3に、東アジアにおいて研究ネットワークを形成すること、および、従来の大正デモクラシー研究をリードした碩学らの研究の傾向性を理解する、であった。 次年度においては、まず以上のような三つの基礎的な調査及び分析について、不完全になっている部分を補い。つぎにそれらを基礎としながら、国境をこえる政治思想の実際にアプローチし、特質を考察する段階へと進む計画である。その際、当時の日本、中国、欧州の知識・思想状況を意識しつつ比較史的方法を参考として吉野の歴史的位置づけを試みたい。第一次世界大戦後、ロシア型の革命思想の影響力の増大のなかで、国家主義や帝国主義を批判しつつも、ロシア型の革命思想とは異なる改造潮流がいかなる理路を発見したのかについて、とくに注意を払いたい。 また若干の遅れを取り戻すために、中国語文献における吉野像を電子データだけでなく、国内外の文献調査を幅広く行い、現物に限りなく接近しながら分析をさらにすすめる。とくに中国での研究者との交流と現地調査に力をいれる計画である。 同時に、吉野作造研究や「大正デモクラシー」研究にかかわる国内外の研究者や研究機関と連携をすすめ、さらなる研究のネットワーク化を試みたい。また、初年度の基礎的な調査や考察を通じて得られた結果を、研究成果として国内外の学会などで積極的に発表していく計画である。
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