研究実績の概要 最終年度である29年度では、前年度に引き続き、国内での調査研究や学会発表にくわえ、中国において文書館史料の調査・収集と学会報告をおこなった。具体的な成果としては、吉野の国家論や主要な政治学概念について再検討を行ったことがあげられる。たとえば、日本政治学会2017年大会で企画された「分科会 講義アーカイブスと政治学」において研究報告をおこなったと同時に、学会内で発表した論文「吉野作造とクロポトキン―『吉野作造政治史講義』を活用して」を著したこと、アントニオ・グラムシのヘゲモニー論の観点から「吉野作造の東アジア政策論―「帝国」論とヘゲモニー理論」(第二届東アジア日本研究者協議会(EACJS))を発表したことがあげられる。特筆すべき研究の成果としては、従来の吉野に関する史料にくわえ、新史料として吉野作造の「講義録」を考察の対象としたことで、吉野の多元的国家論やアナーキズムに関する新たな知見を得られたことである。くわえるに、吉野を起点とする日中の政治思想のリンケージを検討するにあたり、中国で資料を探索した結果、吉野を中国に紹介した高一涵の著作『政治学綱要』や『欧州政治思想史』をとらえたこと、さらに単に政治学概念の直接的なリンケージを探索するだけでなく、たとえばワシントン会議をいかに認識したのかといった国際秩序認識の日中比較検討をおこなう方法上の改善点に気がついた。以上のことから、吉野を起点とする日中の政治思想のリンケージの研究の前提がととのったと言える。ただし、日中の政治思想のリンケージについては、新史料の登場で、国家論をはじめとして吉野の政治理論を先に再検討せざるをえなかったことから、スケジュールに大幅な変更がうまれ、結果として平成29年度中に研究論文としての成果の発表には至らなかった。
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