再生不良性貧血は汎血球減少症を呈する特発性骨髄不全症候群の一型であり、その病態は細胞障害性T細胞による造血幹細胞の排除が主体と考えられているが、細胞障害性T細胞の標的となる抗原は不明である。また、非腫瘍性疾患であるにも関わらず、高頻度に骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの造血器腫瘍に移行し、再生不良性貧血自体にもクローン性造血をしばしば認めるが、クローン性造血の病態への関与に関しては不明な点が多い。そこでクローン拡大の機序・造血器腫瘍発症の機序を解明することを目的として、439症例の再生不良性貧血患者の末梢血検体に対して、次世代シーケンサを用いたゲノム解析を行った。標的シーケンスでは、249の体細胞変異が156症例(36%)に同定された。変異は、BCORまたはBCORL1遺伝子に最も高頻度に変異を認めた(9.3%)。続いて、PIGA (7.5%)、DNMT3A (8.4%)、ASXL1(6.2%)に多く変異が同定された。PIGA・BCOR・BCORL1変異を有する一群は全生存・無進展生存に対して予後良好・それ以外の変異は予後不良な傾向を認めた。更にDNMT3A・ASXL1変異クローンは継時的に拡大する傾向を認めたが、PIGA・BCOR・BCORL1変異クローンは不変または縮小する傾向を認めた。クローン拡大の機序を探索するためnetMHCを用いて、変異エピトープとHLAの結合能を評価したが、変異型ペプチドと野生型ペプチドでは各症例のHLAとの結合能の差を認めなかった。 本研究により再生不良性貧血におけるゲノム異常の全貌が明らかになった。DNMT3A・ASXL1変異は、加齢の関与した骨髄系腫瘍への進展に先立って生じる前白血病性変化であることが示唆された。これらの変異を有する一群に対して早期治療介入することで予後の改善が図れる可能性があり今後の知見の蓄積が待たれる。
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