本年度は前年度に密度行列繰り込み群(DMRG)を用いて研究した、1次元VBS相に対する有限系でのエンタングルメントスペクトラム(ES)の2重縮退性と波動関数の周期的境界条件依存性に着目し、行列積状態に基づくSPT相の一般論からのトポロジカルな意味付けの構築を行った。そこで本研究では、ボンド交替のあるスピン鎖における議論を元にSPT相の分類と反周期境界条件の構成を行った。その結果、2サイトの並進対称性とボンド中心の反転対称性(I)によって、VBS相が4つのグループに分解できることを明らかにした。また、反周期境界条件のVBS相は一般にz軸回りのスピンのπ回転対称性(Rz)による射影表現を導入することで構築可能であることを示した。さらに、反転対称性(I)とπ回転対称性(Rz)の対称性を組み合わせた議論により、反周期境界条件におけるパリティ量子数とトポロジカル不変量の同値性を明らかにした。またトポロジカル非自明相ではパリティ量子数が奇となることを確かめた。特に前年度の研究では意義が不明瞭であったエンタングルメントスペクトラムに関して、パリティ量子数の偶奇性がトポロジカル非自明相における有限系でのESの2重縮退性を導くことを厳密に示した。またDMRGによるESの数値解析を行うことにより、周期的境界条件に依存して異なる振る舞いを示すESがサイズ無限大の極限で、相補的にHaldane相の表面状態を再現することを明らかにした。以上の議論はよく知られたVBS相の厳密な波動関数を用いた議論ではなく、対称性のみによって導かれる行列積状態の一般論であり、一般のSPT相に対しても同様に適用可能である。特に、DMRGや厳密対角化を実行する上で、本研究で用いた手法はSPT相を数値的に検出するうえでの重要な手がかりとなることが期待される。本研究の成果はPhysical Review B誌に掲載済みである。
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