アルゴフロートによる観測データの解析により、東部亜熱帯モード水の分布特性および水温・塩分偏差の形成への影響に関する研究を行った。東部亜熱帯モード水の密度の分布を見ると、冬季混合層深度の極大域では重いモード水が形成され、その東と南では軽いモード水が形成されることがわかった。海洋内部へとサブダクト後、いずれのモード水も循環に乗って南西へと移流される様子が見て取れたが、軽いものが比較的速やかに散逸するのに対して、重いものは翌年の冬季にも見られるなど、密度による分布特性の違いが明らかになった。 重い東部亜熱帯モード水の密度帯に対応する等密度面上では、経年的な塩分偏差がアウトクロップ面から下流域へと伝播している様子が確認できた。モード水形成域では、2006-2009年に強い高温・高塩アノマリー、2014-2015年に強い低温・低塩アノマリーが形成されていた。モード水形成域における等圧面および等密度面上における塩分偏差の時間発展を見ると、2006-2009年には、冬季混合層とモード水の下端から重い密度面へと、高温・高塩偏差が伝わっている様子が確認された。一方で2014-2015年には、冬季混合層が浅いために、形成されたモード水の下端から重い等密度面上への高温・高塩偏差の伝播は起こらず、低温・低塩偏差が生まれたことがわかった。さらに、モード水形成域におけるこの密度面上の塩分偏差は、冬季混合層および春季のコア塩分の偏差とよく対応していた。さらにモード水の下端ではsalt fingerと呼ばれる強い拡散が起こりうる状況であることが、アルゴフロートによる観測から判明した。以上より、東部亜熱帯モード水はサブダクト後、拡散によって速やかに散逸するものの、その塩分偏差は拡散によって重い密度面へと伝わると考えられる。
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