研究課題/領域番号 |
15J05214
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
大場 貴裕 東京工業大学, 大学院理工学研究科(理学系), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 接触多様体 / オープンブック分解 / 写像類群 / コンパクト Stein 曲面 / Lefschetz ファイバー空間 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は ,オープンブック分解や Lefschetz ファイバー空間という多様体のファイバー構造を介し,曲面の写像類群によって接触多様体やコンパクト Stein 曲面の性質を究明することである.今年度は,Stein 充填可能である接触多様体に適合するオープンブック分解で,右手デーンツイストの積に分解できないモノドロミーを持つものの構成を計画していた.結果としてはこのような例は構成できなかったが,計画していた方法を発展させ,以下に述べる 2 つの研究を完成することができた. Loi と Piergallini により,4 次元多様体がコンパクト Stein 曲面であることと,4 次元球体の中のブレイド状曲面という曲面に沿って分岐する 4次元球体の単純分岐被覆であることは同値であることが示されている.報告者は,分岐被覆を用いて,微分同相であるが Stein 構造は異なる任意有限個のコンパクト Stein 曲面の族を構成した.とくに,これらのコンパクト Stein 曲面たちは同じブレイド状曲面で分岐する被覆として実現される.この結果は従来までの Lefschetz ファイバー空間のみを用いたコンパクト Stein 曲面の研究とは異なり,新たな方向性を示す結果といえる. また, Burak Ozbagci 氏 ( Koc 大学) の下に 2 ヶ月滞在した.滞在中に,氏と有向閉曲面の単位余接束上の標準的接触構造に関する共同研究を進めた.その結果,この接触構造に適合するオープンブック分解のページとなる曲面,モノドロミーとなる写像類のデーンツイストによる積表示を与えることができた. ホモロジー 3 球面の Stein 充填に関してまとめた 2 本の論文は,1 本が Topology and its Applications 誌から出版され,もう 1 本が Geometriae Dedicata 誌に掲載決定された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度の目標であった,Stein 充填可能である接触多様体に適合するオープンブック分解で,そのモノドロミーが右手デーンツイストの積に分解できない例の構成ができなかった.しかし,その構成の中で用いることを計画していた接触多様体の分岐被覆については,コンパクト Stein 曲面との関係を通じ,今年度に詳しく見ることができた.これは次年度以降の研究に役立ち得る結果である.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き,Stein 充填可能な接触構造に適合するオープンブック分解で,モノドロミーが右手デーンツイストの積として表示できない例の構成を行う.Stein モノイドという曲面の写像類群の中のモノイドを考えたときに,このようなオープンブック分解のモノドロミーとなる写像類は特異な生成元となり得るため,このような例は重要と考えられる.次年度は考察する曲面を種数 1,境界数 1 の曲面に制限して構成を試みる.この曲面の写像類については,生成元を用いた各元の標準形が知られている.さらに,その標準形を用いて,写像類がタイトな接触構造に適合するオープンブック分解のモノドロミーである条件も知られている.このような既知の結果を活かし,この曲面に対して,欲しているオープンブック分解の存在の有無を決定する.その際,オープンブック分解が Stein 充填可能な接触構造に適合するかどうかは Kutluhan らによる Heegaard Floer 接触不変量の変種を使い判定する.また,右手デーンツイストの積に分解可能かどうかは接触構造の Stein 充填の情報に由来する不変量や写像類群の関係子から判定する.
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