研究実績の概要 |
外部生殖器の形態は強い性淘汰の標的となるため近縁種間であってもしばしば異なる形態を示す。オナジショウジョウバエとモーリシャスショウジョウバエのオス外部生殖器もその例に漏れず,特に把握片と肛板と呼ばれる構造はオナジショウジョウバエで巨大化しており,また,そこに生える剛毛も太短く数多い。本研究はこれらキイロショウジョウバエ近縁種のオス外部生殖器をモデルに,生殖器形態進化に潜む遺伝・発生・行動学的特性の解明を試みている。以下,採用第二年度の進展状況を報告する。 (1)遺伝子発現比較解析:外部生殖器形成時に発現する遺伝子及び種間で発現量の異なる遺伝子を網羅的に検出するため,次世代シーケンサーを用いたRNA-seqをおこなった。約9,000遺伝子が形態形成時に発現しており,そのうち約4,000遺伝子の発現量に種間差が見られた。これら遺伝子の多くはappendage developmentに関わるものであった。 (2)イントログレッション系統によるQTLマッピング:オナジショウジョウバエのゲノムの一部がモーリシャスショウジョウバエ由来のものに置き換わった系統(イントログレッション系統)を用い,肛板の種間形態差に寄与するX染色体及び第二染色体上のQTL領域の絞込みをおこなった。現在までに、X染色体,第二染色体上のQTL領域はそれぞれ234kb(12遺伝子)及び17kb(2遺伝子)まで絞込みを完了している。 (3)外部生殖器の形態差が交尾行動に及ぼす効果:オスの外部生殖器形態が交尾行動パターンに及ぼす影響を検証するため,新たに交尾ペアのカップリング継続時間と交尾中の行動パターンを解析した。第二染色イントログレッション系統のオスとD. simulansのメスのペアはD. simulansの同種ペアに比べ,交尾時間が長くなり,また交尾中の行動パターンも異なることが分かった。
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