研究課題/領域番号 |
15J05278
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
甲斐 雄一 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 注釈 / 南宋文学 / 南宋出版文化 / 中間層文人 |
研究実績の概要 |
1年目である平成27年度は、小川環樹・倉田淳之助編『蘇詩佚注』(同朋舎、1965年)に集佚された蘇軾詩に付される趙次公注(以下、趙注と略称する)について調査し、適宜『王状元集百家注分類東坡先生詩』(以下、王注本と略称する)に引用される趙注と併せてその全体像を検討した。具体的には、趙注を、書物を引用する注釈・しない注釈の二つに大別して検討を進めた。まず、書物を引用しない注釈についてであるが、集佚された注釈には極めて詳細なものが散見される。これより、趙注は蘇軾詩の解釈という範囲を逸脱し、詩の外部にもしばしば言及する饒舌な注釈だと言えよう。この口吻は、趙注が子弟教育において用いられたことに由来する可能性を想定している。ただここには一つの問題が存在する。すなわち、『蘇詩佚注』が集佚した“趙注”が、果たして五山禅僧の注釈が混入しない完全な趙注であるかどうかという問題である。これについては、杜甫の詩に対する趙注(林継中輯校『杜詩趙次公先後解輯校』、上海古籍出版社、1994年)と併せた分析が有効であると考えている。2年目以降の課題としたい。 次に、書物を引用する注釈について、沈括『夢渓筆談』などのように、かなり近い時代に編まれたであろう書物の引用は、すなわち趙次公が利用し得た書物のリストとなるので、調査を継続し全体的にまとめる必要がある。上述の通り、趙次公は杜甫詩にも注釈しているので、杜甫詩の引用に着目してさらなる調査・分析を進めたい。 以上、1年目は趙次公注の分析・調査に集中したため、研究成果発表は、基本的には並行して進めた研究課題(科研費若手研究(B)、課題名:『名公妙選陸放翁詩集』の編集と流伝についての基礎的研究)の最終年次における発表が中心となった。詳細は未定であるが、2年目に当たる平成28年度から成果報告を行っていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目は趙次公注についての調査・分析を企図していたので、おおむね順調に進展していると判断する。作業に着手した初年度であるため、成果報告はできていないが、特任准教授として大阪大学を訪問した中国の研究者からアドバイスをいただいており、大きな遅れは取っていないとの自己評価を下したい。
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今後の研究の推進方策 |
2年目である平成28年度は、引き続き趙次公注と集注本との比較・校勘作業を中心としつつ、引用する書物の確認や他テキストとの校勘作業を加えて進めていきたい。25巻あるテキストの注釈すべてを網羅することは困難であることが予想されるため、概要にも述べたとおり、杜甫詩の趙次公注との比較・蘇軾詩の趙次公注に引用される杜甫詩に着目して分析を進める。成果報告については、日本中国学会大会(国内)・及び中国でのシンポジウム(海外)で口頭発表を行って専門家の意見をいただき、論文としてまとめて『日本宋代文学学会報』に投稿する予定である。
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