研究課題/領域番号 |
15J05286
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
村瀬 里紗 中央大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 社会運動論 / フレーム論 / 感情 / 福島 / スリーマイル / 脱原発運動 |
研究実績の概要 |
2015年度は、社会運動における感情に着目し、研究を進め、その成果を学術論文と国外学会発表にて発表した。社会運動における感情は「非合理的」な要素と見なされ、分析的には軽視され続けていた1970年代と比べ、今では多くの研究者がその重要性を十分に認識し、議論に取り入れ始めている。しかし、その議論は多くの場合、重要性を主張するものにとどまり、なぜ重要なのかの説明が不足している。 このような課題を受け、フレーム論と感情を融合させることにより、感情がどのように運動を生起させるかの説明を行った。1979年アメリカにおけるスリーマイル原子力発電所事故と2011年、日本における福島第一原子力発電所事故の際に起きた、脱原発運動の日米比較を扱い”Collective Emotion”の論文を執筆した(査読有り)。 上記の論文は質的調査(インタビュー・資料収集など)と量的調査(アンケート調査)ともとに書き進められた。トルコで行われたSociology and Critical Perspectives Conference 2015では調査における量的調査をまとめ口頭発表を行った(7月)。続く香港のHong Kong International Conference on Social Scienceでは、調査における質的調査をまとめ口頭発表を行った。またこの際、提出した論文がBest Paper Awardを受賞した。8月はチェコの12th Conference of the European Sociological Association 2015で主に理論的部分を補強し、口頭発表を行った。そして、9月にはポーランドのSocial Sciences and Humanities in Focusでは質的と量的調査の結果を融合し、口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在の研究の進歩状況は、おおむね順調に進展していると判断する。当初の計画において、一年目の最大の目標は福島において調査票調査を実施することであった。また調査票調査を通し、スリーマイル(Walsh 1983)と比較可能なデータを獲得することによって、日米の比較研究を質的分析のみならず、さらに量的分析から進めることが1年目における終着点であった。当初の計画と比べ、おおむね順調に進展していると判断する理由として、以下の2点が挙げられる。 (1)調査票調査の実施と発表:最大の目標であった調査票調査を行うことができ、さらに4つの国外発表を行うことができたため。国外での口頭発表を通じ、いくつかの重要なアドバイスをオーデイエンスからいただくこともできた。それらのコメントに基づき、さらに研究構想を膨らますことができた。 (2)論文の発表:調査に基づき、発表だけでなく論文も発表することができたため。調査もとに、”Collective Emotion: An Unexplored Dimension in Framing Process in Social Movements”. というタイトルで論文を発表した(査読有り)。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題としては、文化的要素を新たに取り入れることを検討している。日米における感情表出の違いを比較研究する際に、背後にある文化を無視することはできない。例えば、アメリカでは公の場において、怒りを表現することは正当な権利であると捉えられるのに対し、日本では「大人げない」などとタブー視する可能性がある。感情的規範を取り入れることによって、研究分析の厚みを増すことが期待できる。 社会運動論においても「文化」を再考することの意味を大きい。社会運動論における文化的研究は個人を、主体的に文化を創造するヒューマン・エージェンシーとして理解する立場をとる。しかし、その結果、個人が文化をではなく、文化が個人を支配する側面は無視された。文化は、個人によって形成されるばかりではなく、人々を縛り付け、拘束し、強制力を働かせる力をも持つ。今後はこのような文化の二面性に着目し、研究を進めることとする。 また既に上記のような課題に対応するため、3月19日-26日まで福島の福島市・郡山市・会津若松市・いわき市にて調査を行った。今後、調査を継続し、新たに論文を執筆する予定である。
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