哺乳類は舌の味蕾に存在する苦味細胞が食物中に含まれる苦味物質(毒)を検出し、口の外に吐き出すことで、体内への侵入を防いでいる。近年、味蕾の苦味細胞と類似した特徴を有する細胞が味蕾だけではなく、気道上皮、消化器官上皮、尿道上皮などにも存在することが報告されている。これらの細胞はイオンチャネルであるTrpm5を発現することから、Trpm5陽性化学感覚細胞と呼ばれているが、詳しい機能や分化メカニズムは明らかになっていない。本研究では、マウスの様々な組織に存在するTrpm5陽性化学感覚細胞の機能や分化メカニズムの詳細な解明を目的として、以下の二つの研究課題をおこなった。 1.前年度の成果から、in situ hybridizationや免疫組織化学、RT-PCRを用いた解析によりSkn-1a機能欠損型マウスの解析した全ての器官においてTrpm5陽性化学感覚細胞のマーカー遺伝子の発現が認められないことを定性的に明らかにした。今年度は、野生型とSkn-1a機能欠損型マウスでTrpm5陽性細胞数を定量した。その結果、すべてのSkn-1a機能欠損型マウス器官でTrpm5陽性化学感覚細胞が消失していることを定量的にも示すことができ、Skn-1aがTrpm5陽性化学感覚細胞の産生に必須な転写因子であることを裏付けることができた。 2.前年度の結果から、小腸tuft cellsにおいて味覚受容体の発現は確認できなかった。一方で、先行研究では味覚受容体の下流のシグナル伝達因子であるGnat3の発現が報告されている。Gnat3の発現を小腸において解析した結果、小腸上皮ではGnat3発現tuft cellsとGnat3陰性tuft cellsが認められた。小腸の微絨毛上皮のtuft cellsはGnat3の発現によって2種類に分類できることが予想される。
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