研究課題
本研究は、トポロジカル絶縁体表面に完全に偏極しているといわれているスピン対を、試料表面に平行に磁場を印加することによってスピン流の時間反転対称性を破り、その結果表面に垂直に現れる磁化を、ミュオンの時間スペクトルの変化として検出しようとするものである。本年度は、トポロジカル絶縁体(BSTS薄膜)の表面スピン構造についての研究を、ミクロプローブであるμSRを用いて行った。東北大学との共同研究によって、マイカ基板上に膜厚60 nmのBi1.5Sb0.5TeSe2単結晶試料を製膜した。この試料について、PSI(スイス)の低速ミュオン施設(LEM)において、μSR測定を行った。LEMでは、ミュオンの加速電圧を最小設定値である1 keVにすることで試料表面0~10 nmに40%程度のミュオンを止めることができる。一方、加速電圧3 keV程度に設定することで、試料の内部(10~40 nm)にミュオンを止めて測定することができる。さらにミュオンの入射に影響を及ぼす横磁場印加に対して、リングアノードの電圧調整によってビームスポットが適切に試料上に乗るように調節できる。低温(5 K)の測定において、TF磁場(100 G)を印加した状態のトポロジカル表面の測定では、試料内部の測定に対して+0.2 %程度の内部磁場の増大が見られた。しかし、比較のために行った金属薄膜(Au)の標準試料においても同程度の変化が見られた。これより、検出しようとしているトポロジカル表面層の厚さから生じる信号に対して加速電圧の調整による影響が大きすぎ、LEMにおいて現在の試料の表面スピン状態を検知するのは困難であることが明らかになった。また、250μm 厚の単結晶試料についてRIKEN-RAL(英国)において試料内部の測定に主眼を置いたμSR測定を行った。結果は解析中であり、表面測定の結果との比較を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書の目的の概要は以下の三点である。1.スピンロック現象を、試料表面を選択的にプローブできる超低速μSR実験によって検証し、第一原理計算を用いてミュオンサイトにおける超微細場の大きさを評価し,妥当性を検証する。2.NMRを用いて表面伝導電子の非弾性散乱長を求め、必要なアンロック磁場の強さを評価し、1の結果と比較する。3.不純物ドープによりフェルミ面の異方性が減少し、スピンロックがエンハンスされる可能性(不純物効果)を検証する。このうち中心テーマである1について、LEMの検出精度の限界と、低速ミュオン測定特有のバックグラウンドの影響が判明した。この問題の対策として、トポロジカル表面層がもっと大きな系、つまり信号がより強く出ることが期待される系を検討する、もしくはLEMを超える高い分解能を持つJ-PARCの超低速ミュオン施設で測定を行うことが挙げられる。これらの対策によって測定の見通しが立っており、また国際会議(ICM2015)で途中経過について報告していることから、進行状況はおおむね順調であると判断する。
以下の3点を検討している。・第一原理計算を用いてミュオンサイトにおける超微細場の大きさを評価する。・ J-PARCの超低速ミュオン施設はLEMを超える高い分解能を持つため、J-PARCでの測定を行う。・ 粒径を変えた微細試料に対してNMR-T1測定を行うことで表面伝導電子の非弾性散乱長を求め、ミュオン測定の際に試料に印加した磁場の強さを評価し、これまでに得られている結果と比較する。
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Physics Procedia
巻: 75 ページ: 726-730
10.1016/j.phpro.2015.12.094.
巻: 75 ページ: 100-105
10.1016/j.phpro.2015.12.014.