研究課題/領域番号 |
15J05325
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
渡邊 塁 東京医科歯科大学, 医歯学総合研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | fMRI / 共感 / 運動観察 / リハビリテーション |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、身体麻痺のような実際的経験が困難な他者の動作であっても、間接的な経験をすることで、その運動感覚の認識・共感が可能であることをfMRIを用いて神経科学的観点から明らかにすることである。 本研究ではまず、経験困難な動作を提示する視点、すなわち見せ方が運動の認識に影響するか、簡単な指上げ動作を採用して検討した。その結果、対象者の正面側から動作が現れるような視点(3人称視点)から提示すると、他者の動作として認識されることが示された。一方、自分側から出ているような視点(1人称視点)だと自身の身体のように認識された。 これをふまえ現在進行中の実験では、実際経験が困難な動作を脳卒中後遺症による片麻痺患者の手の動作とし、その動作を3人称視点から提示した。間接経験者には、一定期間麻痺身体に接しているリハビリ従事者である理学療法士を対称とし、非経験者である一般被験者と比較して実験を行っている。こうした間接経験者が麻痺動作の運動感覚の認識や共感が可能であるか、MRI内にて麻痺動作を観察してもらい脳活動を測定し、その後、麻痺動作に対する主観的評価を質問紙表を用いて検討している。 現時点での結果では、療法士のような間接経験者は実際的に麻痺動作を経験していなくても、麻痺患者の身体の困難さが非経験者に比べて認識できる、ということが主観的評価から示されている。脳活動においても、麻痺動作を観察した際に運動の認識に関わる領域の活動が、非経験者に比べて高い傾向にあることが認められてい。今後、データを増やして結果をより信頼性のあるものにまとめていく予定である。 現時点までで認められた結果は、身体に障害があり困難な状況にある人たちに対して、例え健常者は障害を持っていなくとも、そうした人々と頻繁に接していく経験をすることで、その困難さをより強く認識できることを科学的に示すことになると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の前半の時点で、本実験の前段階である、課題動作の提示方法について検討した。またその結果の一部は国際学術雑誌(Frontiers in Psychology)に掲載が受理された。その上で、本研究の核となる実験に着手している。当初は昨年度前半の時点で実施に至る予定だったが、実験に用いる刺激である片麻痺患者の動作映像の作成に想定以上の時間を要した。その理由として、実験刺激にはある程度麻痺の同じレベルにある複数人の片麻痺患者の動作映像を作成する必要があり、そのための患者のリクルートに時間を要したからである。また、刺激の提示にあたって当初の想定とはやや異なる提示方法が必要なことが判明し、そのための提示ソフトウェアの再プログラミングにもやや時間を要した。 しかし、年度後半より予備実験、行動実験を実施しfMRI実験の実施に至った。現在までに一定数のデータを測定し、解析も並行して行っている。またその詳細に関しても当初の仮説にフィットし得るデータ内容となっている。今年度の夏季前までにデータ測定から解析終了の見通しとなっている。また、新たな解析手法も昨年度の段階で取得しており、その手法を生かすことで本研究の内容をより説得力のあるものにまとめられると確信している。実験・解析が終了し次第、論文作成に着手し年内には論文投稿を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
現在、本研究における核となる実験を実施しているが、その途中経過段階での結果はおおむね想定した仮説に合致している。今後、想定通りの結果として本実験が終了した場合、当初の予定通り論文作成と並行して、実験2に取り組む予定である。実験2に関して、当初は脳卒中後遺症による片麻痺動作を見たことがない一般被験者に対して、麻痺動作の間接的経験の介入として、一定期間麻痺動作を観察したり触れたりしてもらうことを想定をしていた。しかしながら、実験1において麻痺動作映像の作成においても時間を要したことを踏まえると、麻痺患者をリクルートしての介入には膨大な時間を費やすことが想定されている。そこで、より簡便に間接的経験を介入していくために、片麻痺患者が手を動かす映像(実験1にて実験刺激として用いたもの)を繰り返し観察・模倣してもらうことを計画している。これは実験1の行動実験の段階において、一部の被験者から刺激映像に合わせて模倣動作を繰り返すと、その運動感覚がわかりやすい気がする、といった主観的な感想が得られたことを踏まえている。また、過去の先行研究でも、ある課題動作を繰り返して練習することにより、その運動感覚に対する認識が向上することが示唆されている(Bach et al., 2014)。こうした実験計画の修正を行いながら、今年度の後半には実験2に着手する予定である。
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