研究課題/領域番号 |
15J05331
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
梅原 崇 広島大学, 生物圏科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 成獣ライディッヒ細胞 / アンドロジェン / コルチゾール / 精子形成 / 副腎様細胞 / ステロイドホルモン |
研究実績の概要 |
雄の精子形成は,精巣間質に存在する成獣ライディッヒ細胞(ALC)から産生されるアンドロジェンに依存することが知られている.しかしながら,そのALCの増殖はLH依存的であること以外ほとんど明らかとなっていない.申請者は,LHの標的遺伝子であるNrg1を精巣間質において欠損したマウス(LeyNrg1KO)が精子形成不全による低妊孕性を示すことを明らかとした.そこで本研究ではこのマウスを用いて,ALCを中心とした精巣間質の環境変化が精子形成に及ぼす影響の解明を試みている. 平成27年度は,成獣精巣の間質における細胞集団の解析と,細胞集団の違いが精子形成に及ぼす影響の解析を行った.その結果,成熟したLeyNrg1KO精巣には,ALCが少ない一方で,コルチゾール産生を行う副腎様細胞が多く存在すること,またこの細胞集団の変化と伴って精巣局所において,低アンドロジェン・高コルチゾール環境となっていることが明らかとなった.これら環境の変化が,精子形成に関わる影響を検討するためにPAS染色と精細胞のカウントを行ったところ,LeyNrg1KOでは精細管ステージやセルトリ細胞の数に異常は認められない一方で,精細胞が有意に少なくなっていること,特にその減少はelonged spermatidにのみ認められることが明らかとなった.また精巣上体尾部において尾部形成異常の精子が多数認められ,各精子の受精能力も低下していた.これら異常は,低アンドロジェン・高コルチゾール環境の改善によって回復していたことから,LeyNrg1KOにおける細胞集団の異常がステロイドホルモンバランスの秩序を乱し,精子形成とくに精子尾部の伸長過程を阻害していることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,LeyNrg1KOマウスの成獣精巣の間質における細胞集団の解析と,細胞集団の違いが精子形成に及ぼす影響の試みた.その結果,NRG1の欠損によって成獣ライディッヒ細胞が減少する一方で,副腎様細胞が増加することが明らかとなった.そしてこの細胞集団の変化がステロイドホルモンバランスを崩壊させ(低アンドロジェン・高コルチゾール),精子形成を阻害していることが明らかとなった.またこれら予想されていた結果だけでなく,雄と同様なステロイドホルモンバランスの異常を呈する雌のNRG1欠損マウスとの比較解析も行ったところ,NRG1の欠損は雌・卵巣においても間質に異質な細胞を蓄積させること,雌ではこの異常細胞がLH依存的に生存していることが明らかとなった.これら知見はNRG1が精巣間質の細胞集団の変化に果たす詳細な役割の解明につながるだけでなく,雌の妊孕性低下機構の解明にも繋がると考えられる. またLeyNrg1KO精子ではミトコンドリア鞘から折れ曲がった形態の精子が多数認められ,運動性が低下していた.そこで精子運動に関してミトコンドリアに着眼したところ,ミトコンドリアDNAにおける転写/翻訳が精子運動に重要であることも新たに見出した.以上のように,本年度期待していた結果だけでなく,それ以上の結果も得られたことから,本研究は順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
現在までに,成獣ライディッヒ細胞におけるNRG1の欠損によって成熟期における精巣間質細胞割合が異常化するためにステロイドホルモンバランスが乱れ,精子形成が阻害されることを見出した.今後は,この細胞集団の変化に果たす詳細なNRG1の役割を解明するために,in vivo/in vitroの双方を用いて解析していく.具体的にin vivoの解析は,成獣ライディッヒ細胞特異的NRG1欠損マウスと野生型マウスの性成熟過程(0週齢から7週齢)の精巣切片を作成し,各種細胞マーカーと細胞増殖マーカーや細胞死マーカーの二重染色を行い,それら割合や数を比較する.またin vitroの解析は,1週齢の精巣を用いた器官培養を行う計画である.この器官培養によってin vivoで生じていた異常がNRG1の欠損によって直接誘導されているか否か明らかにする. 以上の実験によって,精巣間質の成熟に対してNRG1が果たす役割を明らかにする.
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