本研究課題では,テストステロン産生細胞であるライディッヒ細胞におけるLH下流システムに果たすNRG1の役割について,遺伝子欠損マウスを用いた解析を行った.昨年度までの解析によって,ライディッヒ細胞特異的NRG1欠損マウスや精巣器官培養系を用いた解析より,NRG1はLHが誘導するライディッヒ細胞の増殖を介在する必須因子であること,その増殖が性成熟過程に生じることで,テストステロン産生工場が十分に形成され,成熟後にテストステロン産生が高まることを明らかとしてきた.また,低テストステロン環境は,精子形成,特に精子尾部の伸長過程に異常をきたし,精子運動性の低下させることも見出した.そこで,本年度は,本マウスをモデルとして,精子運動性の改善法の構築を試みた. 制御因子を探索した結果,クレアチン(Cr)が候補化された.雌の生体内において,Crは,卵胞発育過程で産生され,排卵時に卵管へと放出されていた.細胞内へのCr取り込み阻害剤を交尾許容後の雌マウスに投与すると,受精率が低値となることから,Crは精子運動性を増強し,受精を担保する生理因子であることが示された.そして体外受精系のCr添加は,通常の1/1000の精子数で受精を完了させた.このような新規体外受精系について第35回日本受精着床学会で口頭発表し,世界体外受精記念賞を受賞した.そしてCr産生機構について第50回SSR 50th Annual Meetingにおいてポスター発表を行った.以上の研究成果をまとめたものをHuman reproduction誌に論文発表した.また雌雄のNRG1欠損マウスにおいて共通していたステロイドホルモン産生異常についてとりまとめ,Aging cell誌に論文発表を行った.本研究課題より雌雄で生じる繁殖障害のメカニズムを解明し,その治療法を考案することができたことから,十分に研究が進展したと考えられる.
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