研究課題/領域番号 |
15J05349
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 正道 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | iPS細胞 / 心筋細胞 / 心筋症 / 創薬研究 |
研究実績の概要 |
(Ⅰ) iPS細胞から安定して大量に心筋細胞を得る技術の開発 複数クローンの心筋分化誘導を可能とする心筋分化誘導方法の開:iPS細胞から作成した胚様体を浮遊培養する方法を基に、使用する低分子化合物の最適化を行うによって、10^8スケールのiPS細胞からほぼ同様のスケールの心筋細胞を得るプロトコルを確立することに成功し、単一ロットでの大量心筋細胞生産が可能となった。分化誘導初期の外的なWntシグナルの活性化は心筋分化に促進的に作用することが知られていたが、(1)Wntシグナル活性化剤の濃度、(2)投与期間 が分化効率に大きな影響を与えることを見出した。Wnt活性化剤の濃度と投与期間を変化させて心筋分化誘導を行い、分化初期の特定の内胚葉遺伝子の発現上昇が最終的な心筋分化効率とよく相関することを見出した。 (Ⅱ)疾患iPS細胞の作成とその表現型解析 ①肥大型心筋症患者iPS細胞由来心筋細胞を用いた薬剤スクリーニング:本年度中に予定通り家族性心筋症患者30名からiPS細胞を作製した。iPS細胞から分化誘導した心筋細胞をプレートに播種して染色し、細胞面積を測定した結果、肥大型心筋症患者iPS細胞由来心筋細胞は健常者iPS細胞由来心筋細胞よりも有意に細胞面積が大きいことが判明した。市販の化合物ライブラリー約800種類を肥大型心筋症iPS細胞由来心筋細胞に作用させ、細胞面積を縮小させる効果をもつ化合物を複数見出した。現在その機序の解明に向けて、薬剤投与後の遺伝子発現変化や細胞の生理的機能の変化を解析中である。 ②iPS細胞由来心筋細胞の生理的表現型の解析:カルシウム感受性色素、膜電位感受性色素を用いてiPS細胞由来心筋細胞のカルシウムトランジェントおよび膜電位を測定するプロトコルを確立した。心筋細胞に活動電位時間に影響を与える薬剤を投与し、生体で予想される薬理反応が再現されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、心筋症患者30名からのiPS細胞樹立を行った。さらに、iPS細胞の心筋分化誘導方法を検討し、効率的で再現性高い心筋分化誘導方法を開発することができた。結果、健常者クローン10クローン程度、また疾患患者クローン10クローン程度を用いて心筋分化誘導することが可能となっており、今後の再現性高い表現型解析、創薬スクリーニングの基盤となる体制を築くことができた。 年度後半は疾患特異的iPS細胞由来心筋細胞を用い、既報の通り、肥大型心筋症患者から誘導した心筋細胞の細胞面積が大きいことを確認している。実際に市販の化合物ライブラリーで行ったプレスクリーニングでは、マウスの心肥大モデルで心肥大退縮効果が報告されている化合物がヒットしており、我々の構築したスクリーング系の妥当性が示唆される。 ただし年度当初予定していた心筋細胞のサブタイプごとの分化誘導は、データの再現性を確認している段階であり、その機序の探索までには進めていない。 以上により、これまでは疾患特異的iPS細胞を用いたスクリーニング実験体制の構築に見通しがついたという点である程度は順調な進展があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
向上に努める。分化誘導した細胞への非心筋細胞混入が、実験再現性を低下させると考えられ、分化誘導した細胞集団から心筋細胞のみを精製する技術を開発中である。 現在iPS細胞由来心筋細胞の生理的表現型(細胞膜電位、カルシウムトランジェント)を測定する実験を行っているが、心筋細胞精製後にもiPS細胞由来心筋細胞の生理的特性は由来となる個体ごと、クローンごと、分化誘導回ごとによって大きく異なっている。現在、iPS細胞由来心筋細胞の生理的表現型にどの程度の個体間差があるかを検討しており、個体感差を維持したままクローン間差や分化誘導回による差をなるべく小さくする実験手法を探索中である。これによってよりS/N比の高い、心筋症患者特異的な表現型を見出すことを目的とする。疾患患者に特異的な生理的表現型が見出された場合、再度新規の化合物スクリーニングを試みる見込みである。
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