前年度までに、10名の健常者、30名の家族性心筋症患者からiPS細胞を作成し、効率よく心筋細胞を作成する独自の手法を開発した。本年度はこれらを用いて疾患特異的表現型の探索をすすめた。 ①拡張型心筋症 (DCM) 患者iPS由来心筋細胞の表現型解析 既知の遺伝子変異(LMNA)を有する家族性拡張型心筋症の患者からiPS細胞を作成し、心筋細胞を誘導して解析を行った。 DCMは心筋の収縮力低下を特徴とする症候群であり、そのような表現型異常がiPS由来心筋細胞でも認められるかを確認するため、高速カメラを用いて心筋細胞の動きを定量するSI8000(SONY社ライブセルイメージングシステム)を利用して細胞収縮・弛緩のパラメーターを評価した。健常株とDCM株とを比較したところ、細胞収縮速度・弛緩速度は予想外にDCM心筋の方が健常心筋よりも大きいことが判明した。一方、アドレナリン受容体刺激剤isoproterenolを長時間作用させて比較したところ、健常心筋では収縮速度、弛緩速度がやや増大したのに対し、DCM心筋の方はこれらのパラメーターは減少するという反応性の違いが見られた。 ②iPS由来心筋細胞の電気生理的特性の測定 カルシウム感受性色素、膜電位感受性色素を用いてiPS由来心筋細胞のカルシウムトランジェントおよび膜電位を測定するプロトコルを確立した。まず複数のドナー、クローン由来の健常iPS由来心筋細胞を用いて細胞の電気生理特性を検証したところ、由来となるドナー、クローンが異なった場合にiPS由来心筋細胞の拍動数や活動電位持続時、イオンチャネル阻害剤に対する応答に有意な差が生じることが判明した。ベースラインの状態のパラメーター(拍動数など)によって実験に使用するiPS由来心筋細胞を適切に選別することにより、これらの薬剤応答のクローン間差が軽減することが明らかになった。
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