本年度はまず、前年度から引き続いて、合併と関連の深い航空会社の市場支配力とその決定要因およびライバルの存在との相互的な効果について分析を行なった。本研究では、企業の市場支配力を財ごとのマークアップ(価格と限界費用の差)として定義した。先行研究では、集中的な市場において企業が高い価格を設定しており、企業の市場支配力が大きくなっていると示されている。それに対して、本研究では、市場に対して強い影響を与えると考えられる大規模航空会社や低費用航空会社(LCC)の存在が、市場の集中度がマークアップに対して持つ正の効果をどのように変化させるかという相互的な効果について分析を試みた。この研究により、複数のLCCが市場に存在することによって、集中的な市場であっても航空会社の市場支配力は小さくなることが示された。 次に、航空会社の合併が市場に与える影響について、価格・旅客シェア・消費者余剰・企業利潤の観点から研究した。2社の航空会社(デルタ航空・ノースウエスト航空)が合併する場合の潜在的なケースとして、2社が共同持株会社の下で共謀的に行動するケース、どちらか一方の企業(ブランド)に統合されるケースを想定し、それぞれのケースの結果がどのように異なるかをシミュレーション分析によって比較した。合併形態の違いによって消費者が受ける影響にあまり違いがない場合であっても、航空会社にとっては、共同持株会社の下で両方の企業(ブランド)を残すよりも、どちらか一方の企業(ブランド)に統合した方が利潤の和を大きくすることができる。消費者にとっては、限界費用のより低い企業に統合されることにより、消費者余剰が改善される場合がある。また、品質のより高い財を供給している企業が維持されることも望ましい。合併に関与しないライバル企業が価格を上げないことも消費者余剰の維持には重要であることが示された。
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