研究実績の概要 |
初年度に収集した資料の整理、読み込みを行いながら、引き続きタイ人作家シーブーラパー(1905-74)に関する資料や先行研究の収集、分析を行った。海外調査としては、イギリスのロンドン大学東洋アフリカ研究学院図書館を訪れ、タイ文学に関する文献の収集を行った。David Smythによるシーブーラパーを扱った博士論文をはじめとして、貴重な資料を入手することができた。またタイ現地調査でも、チュラーロンコーン大学図書館、シーブーラパー記念館、バンコク市内の書店にて、タイ文学に関する文献、新刊書、雑誌などを入手した。 作品分析に関しては、特に長編小説『絵の裏』(Khang Lang Phap, 1937)について取り上げた論考を日本タイ協会発行の機関誌『タイ国情報』に発表した。作中に描かれた日本の風景や描写はシーブーラパー自身の訪日経験に基づいて描かれたものであり、この作品がピブン政権時代の言論弾圧からの一時的な逃避としての異郷小説であった点を指摘した。また掲載誌である日刊新聞「国民」(Prachachat)に着目しながら論じた。 さらに、シーブーラパーに関する本格的な研究の始まりとなった1970年代の雑誌『社会科学評論』(Sangkhomsat Parithat)と『本の世界』(Lok Nangsoe)に注目し、シーブーラパーに関する記事を分析した。学生運動の高まりの中でシーブーラパー作品が再評価されていった経緯を分析し、その内容を京都大学での研究会において発表した。また、タイ文学作品の翻訳活動も並行して行い、2014年クーデタ直前に書かれた小説を訳出し、『東南アジア文学』15号に発表した。
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