研究課題/領域番号 |
15J05402
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
市地 慶 東北大学, 医学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 高精度放射線治療 / 追尾照射 / 呼吸性移動 / DMLC / X線透視 / 時系列予測 |
研究実績の概要 |
本研究は,肺がんをはじめとする体内臓器移動を伴う動体腫瘍への汎用リニアックによるDynamic multi-leaf collimator(DMLC)を用いた追尾照射放射線治療の実用化推進と,その発展としての動体に対するリアルタイム適応放射線治療に向けた照射技術の開発を目的としている.DMLCによるリアルタイム適応的照射を実現するためには,体内組織・構造がどのように変動しているか予測する必要があり,またその予測に基づいてDMLCを制御する必要がある.そのために本研究では(1)多次元情報に基づく体内組織・構造配置の超高精度予測アルゴリズムの開発と(2)動体追尾に対応したDMLCの動的制御に関する実験的検討を行っている. 本年度は,臨床で計測されたデータの収集とその解析を進めた.これまでに肺がん放射線治療において撮影された50件超のkV X線透視像とMV X線透視像および体表面呼吸性変動データのセットを取得した.また,呼吸性移動の計測のため,これまでに取得されたX線透視像を対象とした画像追跡法を開発し,腫瘍追跡実験を通じてその性能を評価した.加えて,体内組織・構造の計測を容易にするため,X線透視像から動体の輝度成分を分離・抽出するアルゴリズムについても検討を進めた. 体内組織・構造配置の予測アルゴリズムの開発にあたっては,非線形システムの安定性解析手法をもとに呼吸性移動時系列の予測可能性を解析し,1 mm未満の誤差で数百ミリ秒先の予測を達成しうることが示された.さらに,多元信号を効率よく扱うため,既存時系列モデルの線形・非線形カルマンフィルタとしての実装を進めている. このほか,予測性能向上のため,腹部・胸部体表面の不規則な呼吸性変動を抑制する新たな呼吸誘導システムの検討を行った.また,次年度以降実施予定であったDMLCによる追尾照射の線量的なシミュレーション評価を先行開始した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体表面変動データ,kV X線透視およびMV X線透視から構成されるマルチモーダルな計測データを多数収集することができた.一方,各モダリティの同期についてはそれぞれの計測データのヘッダ情報に記録された計測時刻に依存しており,その正確さと精度に依存している状況である.マルチモーダルな多次元情報の予測には,より高い精度での同期が望ましいため,引き続き同期計測の確立に努める必要がある. 呼吸性移動の画像計測については,X線透視像から経時変化に頑健な画像特徴を自動検出し,それをオプティカルフローによりリアルタイム追跡する手法を開発した.腫瘍追跡実験の結果,本手法の追跡誤差は,従来の画像特徴ベースの手法と同等かそれ未満であることが確認された.また,1フレームあたりの処理時間はX線透視装置のサンプリング周期未満を達成している.X線透視像から体内臓器・構造の呼吸性移動を計測する手法として本手法は実用上有効と考えられる. 体内組織・構造配置の予測アルゴリズムの開発においては,肺腫瘍位置の呼吸性変動時系列を非線形システムの出力としてとらえ,その予測可能性を最大リャプノフ指数の推定を通じて検討した.その結果,DMLCによる追尾照射システムの時間遅れとして現実的な数百ミリ秒先まで,理想的にはサブミリメートル精度の予測が実現しうることが示唆された.この結果は,開発・実装を進めている線形・非線形のカルマンフィルタによる時系列予測の数値目標としても活用可能である. また,予測性能向上の取り組みとしては,呼吸誘導システムによる呼吸性移動の不規則性低減が一定の効果をあげている.このほか,DMLC追尾照射の線量評価については東北大学病院との共同研究を通じて,当初計画以上に進展している. 以上を総合すると現在までの達成度はおおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
マルチモーダルな計測におけるより高精度な同期実現には,共通のトリガー信号を各モダリティに与える方式を検討する. 体内組織・構造の呼吸性移動による配置変化については,今年度開発した画像追跡手法の応用により,各部位の追跡を試行し,計測結果の解析を進める.また,各部位の追跡にあたっては,体内組織・構造の認識が重要となると考えられるため,これを容易にする動体輝度成分の分離・抽出アルゴリズムの性能向上にも継続的に取り組む. 体内組織・構造配置の予測アルゴリズムについては,線形・非線形カルマンフィルタとして実装した既存時系列モデルの性能評価を進める.性能評価にあたっては画像追跡結果により取得された各部位の呼吸性移動時系列を対象とした予測実験を実施する. 呼吸誘導システムについては,システム制御工学的な人体-誘導システムのモデリングと解析を通じて呼吸の不規則性を更に低減する試みを進めるとともに,予測誤差低減にどの程度の効果があるか評価を進める. DMLC追尾照射の線量的な評価については,今年度実施のシミュレーションをベースに,臨床での照射により近い状況を再現し,追尾照射が有効となる条件などを明らかにしていく.
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