研究課題/領域番号 |
15J05489
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松井 啓史 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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キーワード | 第二超分極率 / 開殻性 / 非線形光学 |
研究実績の概要 |
以前の研究でポリアセチレンのシリコン類縁系であるpoly(disilene-1,2-diyl)がポリアセチレンに比較して顕著におおきなγの増大を見せることを明らかにしたが、長鎖のpoly(disilene-1,2-diyl)の合成は現代でもなお困難な課題となっている。一方、ポリアセチレンの炭素間二重結合の一部をシリコン間二重結合に置き換えた分子では、分子の安定性とともに開殻性と分子内電荷移動性の発現によるγの増大が期待される。そこで、本研究ではシリコンπ共役系の炭素π共役系への導入の効果を検討した。その結果、シリコン間二重結合への置換によってγが炭化水素系と比較して2-13倍増大することが明らかとなった。詳しい解析の結果、この増大はシリコン間二重結合の導入による開殻性の発現と分子内電荷移動により引き起こされることが明らかとなった。 また、より大きなγをもつ系を実現するために、これまでに様々な設計指針が提案され、それらに基づき物質設計が行われてきたが、理論限界には未だほど遠く、設計指針のさらなる探索が必要となっている。そこで我々は、未解明であった一重項開殻性の異なる系におけるスピン状態変化に対するγの依存性について水素鎖モデルを用いて検討した。その結果、対応する一重項系が中間的なジラジカル性をもつ領域では高いスピン状態ほどγが減少することが明らかとなった。その一方で、閉殻に近い一重項系は、中間スピン状態や最高スピン状態で顕著なγの増大が見られることが明らかとなった。励起状態計算による詳しい解析の結果、この顕著な増大は主として高スピン状態における励起エネルギーの急激な減少によって引き起こされることが判明した。 これらの結果は国際的な学術雑誌に筆頭著者論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
未解明であった一重項開殻性の異なる系におけるスピン状態変化に対するγの依存性について水素鎖モデルを用いて検討した。その結果、対応する一重項系が中間的なジラジカル性をもつ領域では高いスピン状態ほどγが減少することが明らかとなった。その一方で、閉殻に近い一重項系は、中間スピン状態や最高スピン状態で顕著なγの増大が見られることが明らかとなった。これは、従来報告されていない特徴であり、新たな構造-特性相関として、今後の実在系での検証が期待される。 さらに、ポリアセチレンの炭素間二重結合の一部をシリコン間二重結合に置き換えることで、シリコンπ共役系の炭素π共役系への導入の効果を検討した。その結果、シリコン間二重結合への置換による開殻性と分子内電荷移動性の発現がγを増大させることが明らかとなった。この結果は未だに合成が困難であるpoly(disilene-1,2-diyl)よりもより実現性の高い系においてもγの増大を予想しており、今後実験による検証が期待される。 これらの成果について、国際的な学術雑誌に発表しており、得られた成果は当初の計画における第二年度の範囲を超えており、計画以上に研究が進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
以前の我々の研究により、系の一重項開殻性(y)と第二超分極率(γ)の間に、中間的なy (0 < y < 1)を有する系が同程度のサイズの閉殻系(y = 0)や完全開殻系(y = 1)に比べて顕著に大きなγを示すという相関が明らかとなった。加えて、理論モデルによる更なる解析から、開殻系への非対称性の導入が、系の第一超分極率(β)およびγのさらなる増大をもたらすことが予測されている。しかしながら、この理論モデルによる予測が実在分子系でどの程度有効であるかを包括的に検討した例はまだない。また、マルチラジカル系に対するy及び非対称性とNLO物性の相関の検討も未だなされていない。そこで今後は、分子間距離によってyを制御できると期待されるπラジカル多量体に対して静電場を印加により非対称性を導入することで、y - 非対称性 - NLO物性の間の相関を包括的に分子系に対して検討すると同時に、静電場印加によるNLO物性の制御を検討する。 πラジカル分子としてはサイズが小さく、すでに実験的に合成・結晶化されている1,2,3,5-dithiadiazolyl を採用し、構造については単量体についてのみ構造最適化を行い、分子面間距離をdだけ離したものを多量体の構造とする。このような多量体に静電場を印加することで非対称性を導入し、y - 非対称性 - NLO物性の間の相関を検討する。
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