まず、上海共同租界会審公廨において1920年代に問題となった中国人の二重国籍問題について分析・検討を行った。具体的には、スペインやポルトガルの二重国籍を持つ中国人が外国の領事裁判権及び保護権を盾に会審公廨の裁判権から逃れてきた事実、そして、こういった国籍問題に対する上海総商会の反応について分析し、租界における中国人社会の清代からの連続性について指摘した。この成果は「上海公共租界国籍問題初探」として胡春恵、劉祥光主編の論文集『2015両岸三地歴史学研究生検討会論文集』(国立政治大学歴史学系、香港珠海学院亜洲研究中心、2016年10月、査読付き)に掲載される。 また、上記二重国籍問題についてさらに検討を進め、会審公廨イギリス人会審官がこの問題にいかに対処したのか、在華イギリス領事館、植民地省、外務省がそれぞれどのような立場から対立を起こしていたのかについて分析した。その結果、会審官や領事館を中心とする租界の外国人は北京政府の法を有効活用しようとしていたこと、北京政府の影響力が租界にも浸透していたことが明らかになった。この成果を、『広島史学研究会大会』(2016年10月29-30日)において「領事裁判権との関係から見る中華民国期国籍問題」というタイトルで報告し、また、これに基づく研究論文を現在学術雑誌に投稿中である。 次に、租界における無条約国外国人の裁判権問題を切り口に、北京政府と外交部の交渉に着目することで、1920年代に租界の原則が慣例から法律に移っていく過程を明らかにした。この成果は台湾でのシンポジウム『第二届「百変中国:1920年代之中国」青年学者論壇』にて「1920年代北京政府与上海租界之関係――以会審公廨為中心」として報告した。
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