研究実績の概要 |
本年度は霊長類を対象にした研究論文を2報発表した。まず、一次視覚野の視野地図と樹状突起形態の関連を調査し、錐体細胞の基底樹状突起が一次視覚野内で均一であることを示した(Oga, Okamoto, Fujita, 2016)。この成果は、一次視覚野における視野表現が偏心度によりゆがんでいることの原因が、情報を受け取る一次視覚野3層細胞側にあるのではなく、入力線維の軸索の分枝の仕方にあることを示唆している。視野表現成立の神経機構の理解を大きく進めた。もう一つは錐体細胞の形態とスパイン密度の発達変化を大脳皮質5層においても調査し、3層細胞に関する先行研究成果(Elston, Oga, Fujita, 2009)と合わせて、錐体細胞の基底樹状突起が領野と層それぞれに特有の発達過程を経て成熟することを明確にした(Oga, Elston, Fujita, 2017)。本研究の成果は、ヒトの脳では実現できない精度での解析を行うことで初めて得られた。今後、ヒト脳の発達、発達異常、老化、疾患に伴う神経細胞の形態変化を評価する基盤を提供する重要な成果である。スパイン形態の領野間比較研究のデータ解析も順調に進行しており、成体サルの解析は終了し、連合野では視覚連合野TEだけでなく、前頭連合野12vlでも樹状突起スパインの大きさの多様性がV1より大きいことが明らかになった。現在、本解析を生後発達に沿ってどのように変化するかを調査中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、本研究の主な課題である成体サルの樹状突起スパイン形態の領野間差異を明らかにするための解析を進めた。 また本主題に加えて、一次視覚野の視野地図と樹状突起形態の関連についての研究結果をまとめ、投稿し、受理・出版された(Oga, Okamoto, Fujita, 2016, Front. Neural Circuits)。さらに、スパイン形態の発達変化の予備調査として、錐体細胞の形態とスパイン密度の発達変化の調査を大脳皮質5層に拡大した。この結果報告も受理・出版された(Oga, Elston, Fujita, 2017, Front. Neurosci.)。
樹状突起スパイン形態は予備調査において判明していた通り、成体サルにおいての領野間差異が存在し、樹状突起スパインの形態は一次視覚野(V1)より高次領野(前頭連合野12vl、視覚連合野TE)ほどスパイン頭部の大きさが多様であることが明らかとなった。本年度は視覚経路上の2領野(V1, TE)に加え、前頭連合野(12vl)のデータが出そろった。なお、本研究の成果は現在投稿準備中である。
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