ES/iPS細胞を用いた細胞治療を行うにあたり、分化誘導後に残存する未分化細胞は移植後の腫瘍形成の原因として懸念されている。本研究では、マウスES細胞を用いて神経誘導後に残存する未分化細胞について、その性質と未分化維持機構を明らかにすることを目的とした。 昨年までの解析から、ES細胞の神経誘導時に残存する未分化細胞は、多能性を保持しながらも、細胞周期の進行が著しく遅延した「休眠多能性状態」にあることが分かった。DNAマイクロアレイによる解析で、残存未分化細胞ではES細胞に比べ、胚発生に関わる転写因子の発現が亢進していた。そのうち、本研究では転写因子FoxO3に着目した。残存未分化細胞において、FoxO3をノックダウンすると、多能性転写因子の発現が低下し、三胚葉分化能と自己複製能も損なわれた。このことから、休眠多能性細胞の多能性維持には、FoxO3が必須であることが分かった。さらに、SFEBq法に限らず、EB法においても、残存する未分化細胞はFoxO3依存的に多能性を維持することが分かった。 最後に、FoxO3の阻害剤を用いた検討を行った。AS1842856は、FoxO1の阻害剤として知られるが、FoxO3の活性も部分的に阻害する。休眠多能性細胞をAS1842856で処理すると、Oct4の発現が有意に低下し、自己複製能も有意に損なわれた。このことから、FoxO3に対する阻害剤が未分化細胞の除去に利用できる可能性が示唆される。 以上より、ES細胞の分化誘導後に残存する未分化細胞は「休眠多能性状態」にあり、FoxO3依存的に多能性を保持することが明らかとなった。これらの結果は、Molecular and Cellular Biology誌に発表した。
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