研究課題/領域番号 |
15J05593
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
小林 彩保 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 構造解析 / NMR / SAXS / RRM / RNA / リン酸化 |
研究実績の概要 |
Nrd1(negative regulator of differentiation 1)はRRMを4つ持つRNA結合タンパク質で、細胞質分裂時のアクトミオシン環の収縮に必須であるミオシンIIの軽鎖をコードするcdc4のmRNAに結合し安定化することが知られている。興味深いことに、この過程において、Nrd1はN末端領域からRRM1にかけて存在するThr40、Thr126残基が成長シグナルを伝達するMAPキナーゼPmk1によってリン酸化されることによりRNA結合能が抑制される。本研究では、構造解析によって、MAPキナーゼによる翻訳マシナリーの直接のリン酸化が分子スイッチとして機能制御する機構を解明する。 各領域の試料を調製し、NMR測定を行ったところ、RRM1-RRM2及びRRM3-RRM4タンデムドメインと各RRM単独ドメインのスペクトルは一致しなかった。4つのRRMドメインを含んだ領域のスペクトルをRRM1-RRM2及びRRM3-RRM4のスペクトルと比較したところ、それぞれのスペクトルが一致した。したがって、RRM1とRRM2の間に相互作用があり、RRM3とRRM4の間にも相互作用が存在するものの、RRM1-RRM2とRRM3-RRM4の間には相互作用が存在しないことが明らかとなった。 Nrd1のリン酸化ミミック体(T126E)を調製し測定したところ、RRM1の構造が崩れていることが明らかとなった。Pmk1によりリン酸化されるとRRM1の構造変化により全体が凝集し、RNAが結合できなくなるのではないかと示唆される。 Nrd1全長の全体構造の知見を得るために、X線小角散乱(small angle X-ray scattering ; SAXS)を測定し、GASBORによる擬原子モデルを構築したところ、非リン酸化Nrd1は4つのRRMが一直線上に並んだ、RNAと強く結合する領域が露出した全長構造をとっていることが明らかとなっている。この伸びた構造により、RNA結合面が露出し、RNAが結合可能になっているのではないかと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Nrd1のリン酸化によるRNAとの結合抑制メカニズムの解明に大きく近づいたからである。RNAとの結合が抑制されるのはキナーゼによりリン酸化されるRRM1ドメインの構造変化のみによるものではなく、リン酸化によるRRM1の凝集により、ドメイン間の相互作用が失われ、Nrd1全長が凝集し、RNA結合領域にRNAが結合できなくなるためであると示唆された。 また当初の計画外であった実験にも着手しており、Nrd1と相互作用することが知られているタンパク質であるCpc2の結晶化に成功している。Cpc2およびCpc2/Nrd1複合体の構造解析へと発展することができる結果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
Nrd1全長の構造解析に向けて、各ドメインの構造情報を取得する必要があるため、決定済みのRRM2以外にRRM1-RRM2、及びRRM3-RRM4タンデムドメインの構造解析をNMRの定法を用いてそれぞれ行っている。 Nrd1はリン酸化によりRNAとの結合が抑制されるとともに、RACKホモログであるCpc2と結合し、ストレス顆粒を形成することが見出されている。ストレス応答の制御メカニズムを原子レベルで理解するため、Cpc2と結合するNrd1の領域の特定を行い、Cpc2とリン酸化Nrd1の複合体の構造解析にも取り組む。Cpc2と結合するNrd1の領域の特定は、SPR法及びNMR法を用いて行う。
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