研究課題/領域番号 |
15J05597
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
逢坂 麻由子 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | ubiquilin2 / ALS / タンパク質品質管理機構 / TDP43 |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)関連タンパク質であるubiquilin2(UBQLN2)がoptineurin(OPTN)と相互作用し、タンパク質品質管理機構の調整を行っていること、それぞれの障害がタンパク質品質管理機構の破綻をもたらすことを私は既に報告している。当該年度はその研究をさらに発展させ、ubiquilin2のどの領域がタンパク質品質管理機構へ関与しているかを同定することに成功し、報告することができた。 目的としていた「OPTN+/UBQLN2+ veisicleの細胞生物学的意義の検討」を行うため、OPTN+/UBQLN2 vesicleへの各ドメインの与える影響を検討した。ALS関連変異型+各ドメイン除去UBQLN2 plasmidを作成し、神経系培養細胞に発現させた。UBA除去plasmidを発現させた場合は免疫ブロットでタンパク質のポリユビキチン化が阻害された。また、ALS関連変異型+UBL除去UBQLN2 plasmid発現細胞の免疫ブロットでは高分子量バンドが確認されたが、UBLが欠如するとプロテアソーム系による分解が滞りポリユビキチン化タンパク質が分解されないという機序の関与が想定された。同様のplasmidを発現させ抗ADRM 抗体で免疫染色を行うと、変異型+UBA除去UBQLN2を発現させた細胞の封入体において、UBQLN2とADRM1が共局在していた。先ほどの検討と免疫染色の結果と合わせて考えると、ADRM1で染色される封入体形成はポリユビキチン化タンパク質の増加とは無関係に起こり、UBAを介して封入体が形成されることがわかった。 以上のようにUBL の欠如がプロテアソーム系によるタンパク質分解の障害をもたらす可能性があることを示すことができた点は、今後のALSの病態解明に繋がる成果であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Aim 1: OPTN+/UBQLN2+ veisicleの細胞生物学的意義の検討 概要で示した通り、今年度私が行った検討により、UBLを除去したALS関連UBQLN2を発現させると、ポリユビキチン化タンパク質は著増し、一方でOPTN+/UBQLN2+ vesicleは消失し封入体も形成されないということがわかった。ALS関連変異型UBQLN2のみの発現では出現するこの封入体はADRM1陽性であり、プロテアソームと関与していることが示唆された。UBL の欠如がポリユビキチン化タンパク質を増加させ、ADRM1陽性封入体が形成されないということにより、プロテアソーム系によるタンパク質分解の障害をもたらす可能性があることを示すことができた。 Aim 2: ALS関連分子、OPTN、UBQLN2、TDP-43、FUSのクロストーク解明 ALSの病態を検討する上で中心となるタンパク質、TDP-43との相互作用も検討した。V5タグのついた野生型TDP-43と野生型、もしくはALS変異型ubiquilin2を共発現させた培養細胞を免疫沈降し、抗myc抗体で沈降させ抗V5抗体でブロットを行ったところ、野生型、変異型ubiquilin2のどちらもTDP-43と相互作用していることが確認することができた。このことはALS患者の脊髄でTDP-43とubiquilin2が共局在している報告を私の実験環境でも再現できていることを示している。さらに2者の関係を検討するために、野生型、変異型ubiquilin2と野生型TDP-43を発現させた培養細胞を抗V5抗体でブロットすると、コントロールと比べて、野生型、変異型ubiquilin2を発現させた細胞ではTDP-43の量が増大していた。一方でTDP-43をFused in Sarcomaと置き換えると、この現象は認められなかった。以上より、ubiquilin2は野生型、変異型ともにTDP-43と結合し、その安定化に関与していると言える。 上記Aim1, 2ともに成果を上げることができたため、当初の計画以上に研究は進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
①本年度、ALS患者のwhole-exome sequencing解析により、新たなamyotrophic lateral sclerosis (ALS)/front temporal dementia (FTD)の原因遺伝子、TBK1が同定された。TBK1のコードするTANK-binding kinase 1 (TBK1)は様々なタンパク質と結合しリン酸化する機能を持ち、自然免疫、炎症、そしてautophagyを調節している。通常状態ではoptineurin、p62、TBK1はautophagosomeに局在しているが、TBK1に変異が生じるとTBK1はその機能を喪失し、autophagyが障害され、これら3つの分子は封入体として蓄積するようになると推測されている。TBK1がoptineurinやP62の上流でautophagyの進行に必須であり、その機能喪失がautophagyの障害を引き起こすということは、ALS発症カスケードを想定する上で非常に重要であると考えている。よってUBLQN2の上流にあるTBKの機能を変化させることで、下流のOPTN, UBQLN2の分子動態がどのように変化するかを検討したい。 ②近年次世代シークエンサーの出現により、ALSの領域でも日々新たなmutationが報告され続けている。私の研究ではALSに関与する原因遺伝子28のうちのUBQLN2, OPTNなどを選択し、さらに無数ある各遺伝子の一塩基配列置換の数種類を選んで培養細胞に発現させているにすぎない。各変異により培養細胞やヒトにおけるphenotypeは大きく変わる可能性があり、わずかな数のmutationを検討してもALSの病態解明には微々たる貢献しかできない可能性がある。よって今後はALS症例に対し次世代シークエンサーを用いたexome解析等を行い、既存・新規の変異を同定し、そのphenotypeを検討することも考えている。
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