研究課題/領域番号 |
15J05622
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
佐々木 亨 東京理科大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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キーワード | 銀河団 / X線天文学 |
研究実績の概要 |
銀河群は数十個の銀河が、銀河団は数百個の銀河が暗黒物質の重力によって束縛されており、宇宙年齢をかけて成長してきた天体である。巨大な銀河団は銀河群の合体や宇宙の大規模構造からの物質の降着を受けて形成された。現在までに合成された元素の大半は銀河団・銀河群を満たす数千万度の高温ガス中に存在する。高温ガスはX線を放射するため、X線観測から宇宙の星形成史や加熱史を探る事ができる。 日本のX線天文衛星「すざく」は検出器のノイズが欧米のX線天文衛星より小さいため、天体からの微弱なX線も検出することができる。本研究は「すざく」で観測された13個の銀河団、銀河群の総ガス質量と高温ガスに含まれる鉄の総質量を求めた。高温ガス中に存在する鉄の質量は、銀河内の恒星中に存在する鉄質量よりも数倍多いことが明らかとなった。また、元素は銀河内の星によって合成されたたため、銀河の星質量あたりに合成する鉄の質量が一定ならば、高温ガス中の鉄質量は銀河団のメンバー銀河の光度に比例するはずである。本研究は、大小様々な銀河団・銀河群の単位銀河光度あたりの鉄質量(鉄質量-銀河光度比)を調べた。その結果、巨大な銀河団は一定の鉄質量-銀河光度比を持つが、小さい銀河団や銀河群は巨大銀河団よりも小さい鉄質量-銀河光度比であった。単位銀河光度あたりのガス質量も同様の傾向が見られたので、重力の小さい天体はガスを集めることができなかったことを意味する。 銀河団は衝突合体を繰り返して成長してきたと考えられているが、合体した銀河や銀河群がどのように銀河団に混ざっていくのかはよくわかっていない。弱い重力レンズ効果によって暗黒物質の分布が詳細に調べられているかみのけ座銀河団に注目し、かみのけ座銀河団に合体中の銀河群の周辺を「すざく」衛星で観測した。その結果銀河群周辺の高温ガスが周辺に比べて2倍ほどに加熱されていることなどが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究概要にもある通り、本研究の結果は大きく2つに分ける事ができる。本年度はどちら研究結果も学会発表を行なうことができた。さらに投稿論文としても学会誌に投稿を行ない、現在査読中である。これらを踏まえると、当初の計画より進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究によって、重力の小さい銀河群はガスを集めることができなかったことが明らかとなった。今後は銀河団・銀河群の加熱史と高温ガスの分布との相関関係がないかを調査する。 また、これまでの研究では以下の2点についての問題も残っている。一つ目は高温ガスのモデルの不定性による系統誤差の評価である。高温ガスのモデルは単一温度で表現しているが、実際には様々な温度のガスが存在するはずである。複数の温度が存在するとした場合に、高温ガス中に含まれる鉄質量の測定に影響がないかを調査する。もう一つは迷光と言われる望遠鏡を異常経路で通過してくるX線の影響の調査である。「すざく」衛星に使われている望遠鏡は迷光を少なくする工夫がなされているが、銀河団のX線放射が弱くなると迷光の影響は無視できない可能性がある。迷光の影響を調べるために、シミュレーションを行ない、観測にどの程度影響を与えるのかを調査する。
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