研究課題
本研究では、腸管粘膜面へ獲得免疫を誘導しうる因子を同定し、その因子ならびに関連因子がより効果的で安全な粘膜ワクチンやアジュバントの開発に応用可能であることを示したい。これまでのI型インターフェロン受容体欠損(IFNAR2 KO)マウスを用いた検討により、アデノウイルスベクター(Adv)筋肉内投与後の腸管粘膜CTL誘導にI型IFNシグナルが重要であること、またI型IFNシグナルがIL-6を誘導することを明らかにしている。今年度は、その下流の分子メカニズムを解明すべくさらなる検討を行った。IL-6がIL-17産生性ヘルパーT細胞(Th17)の分化誘導に必須のサイトカインであること、またTh17がCTLの増加や活性化を制御することに着目し、Adv投与後の腸管粘膜面でI型IFNシグナルを介してTh17が誘導され、このTh17が腸管粘膜CTL誘導を促進するのではないかと仮説を立てた。まず、所属リンパ節および腸管粘膜面においてTh17が誘導されているのかどうかをflow cytometry法やELISA法により検討したところ、野生型(WT)マウスの各組織ではTh17が増加していた一方で、KOマウスではWTマウスと比較してTh17が減少していることが明らかとなった。このことから、Adv投与後の所属リンパ節および腸管粘膜面においてⅠ型IFNシグナルを介してTh17が誘導されていると考えられたので、次に所属リンパ節におけるTh17誘導サイトカイン群の遺伝子発現をRT-PCR法により調べた。その結果、WTマウスではTh17誘導サイトカイン群がAdv投与後に上昇していたものの、KOマウスではそれらの発現がWTマウスと比べて顕著に低下していた。したがって、Adv投与後の所属リンパ節においてⅠ型IFNシグナルを介してTh17誘導サイトカインが発現するため、Th17が誘導される可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
修士課程時に得られた知見を元に、種々の検討を重ねた。具体的には、メカニズムの解明に向け、既存の実験系の改善や新規の実験系の構築行い、様々な基礎的データや発展性のある予備データを集めることが出来た。当初の想定よりも予備検討に時間がかかったため、まだメカニズムの全容解明には至っていないものの、今年度に得られた研究成果や実験系を足がかりとしてさらに大きく研究を展開できると考えている。
本年度で得られた知見から、Adv筋肉内投与後に所属リンパ節でⅠ型IFNシグナルを介して誘導されるTh17が腸管粘膜面へと移行し、腸管粘膜CTLの誘導を促進しているのではないかと考えている。今回、所属リンパ節においてI型IFNシグナルを介してTh17誘導サイトカインが発現することは分かったものの、Th17誘導に関わる免疫細胞がI型IFNシグナルの制御を受けているのかどうかは明らかとなっていない。予備的な検討ではあるが、所属リンパ節においてⅠ型IFNシグナル依存的に増加する抗原提示細胞サブセットを見出していることから、今後はこのサブセットに含まれる免疫細胞に着目し、Th17誘導に関わる免疫細胞サブセットの同定を目的とした検討を進める。またこれとは別に、Th17が腸管粘膜CTL誘導に関わっているのかを調べるために、KOマウスへin vitroで分化誘導したTh17を移入することで腸管粘膜CTLの誘導をレスキュー出来るかどうかの検討や、Adv投与後のTh17誘導を阻害することで腸管粘膜CTLの誘導が抑制されるのかどうかの検討を行う予定である。
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International Immunology
巻: 28 (3) ページ: 105,115
10.1093/intimm/dxv058